クリスのオージースラング教室

英語の歴史や文化をふまえ、オーストラリアのスラングをご紹介。

クリスの使えるオージースラング教室 VOL.8

 このコラムを書き始めてからすでに8ヶ月が経ち、今月号で初めて "Mate" を紹介することに驚く人は多いと思います。このオーストラリアを代表する有名な単語には、ニュアンスや政治的な歴史があり、紹介するのは単なる挨拶としてではなく、注意をうながす言葉としてや、相手の名前を忘れてしまったときの名前代わりに使う場合、頼みごとする際にも使える等、便利なオージースラングです。使い方を身に付けましょう。

今回は「Mate」

 "Mate" という言葉には意外に長い歴史があり、イギリスでは1380年ぐらいから使用されていたと言われています。当時、"Messmate" という言葉で "Mate" が初登場し、「一緒に食事をする人」という意味で使われていたそうです。早くとも1450年ごろから船乗りと労働者は挨拶として使い始め、それから500年以上に渡り、今日まで使用されています。

 勿論1788年まで英語を喋る人がいなかったオーストラリアでは "Mate" はそれ程長い歴史を持っていません。植民地化された時代に来豪した囚人の多くはコクニー民族(ロンドンの東部に住んでいた貧しい民族)で、元々コクニー英語では多用されていた "Mate" が、オーストラリアでも広がり日常会話として使用され始めました。

 1999年、英国から完全に独立するための国民投票のとき、ハワード首相が新しい憲法の下書きの前文に "We value … independence as dearly as mateship" という表現を入れようとしました。"Mateship" という言葉は友情という意味で、オーストラリア人はその友人関係を独立心ほどに大切にする、強い "mateship" 思想を憲法に表すつもりで入れたと述べました。当時でも、現在でも、"mateship" という言葉はなかなか表現が古く、とくに男らしい含みがあったので、女性からの批判が多数ありました。結果として、首相がこの提案をやめ、それ以来 "mateship" はあまり聞くことがない言葉になってしまいました。

 しかし、現在でも "mate" 自体が良く使用され、一般的に、3つの使い方に分かれています。その中で、最も耳にするのは挨拶としての使い方です。男性ならばオージーらしく、友達と会うたびに大声で "Maaaaate!"。そこまでしなくても、普通に "Mate, how’s it going?" と言うことは日常的な挨拶で、いつでも、どこでも耳にする言い方です。

 また、男同士で少し相手に悪いなぁと思うとき、"Mate…" で文を始めることもよくあります。"Mate, I’m sorry, but I have to go." 「あ、悪いけど、時間だ…」という意味でよく使われ、パブでは "Mate, I’m driving, so it’s only gonna be a few for me tonight." 「悪いけど、今日は運転しているから2、3杯だけだなぁ」と言うように使います。あらゆる場面で申し訳ないという気持ちを伝える際、相手に対する言葉を和らげるために使われる表現です。

 注意するときにも "Mate" が使えます。日本語で「君!」や「てめー!」と言うとき(もちろん、日本語ではこの言葉を使う機会はあまりありませんが)、オーストラリアでは男であれば "Mate" を使います。"Mate! Hey! Mate! Whaddaya think you’re doing?" 「おい! お前は何をやっているの!?」というように使えます。また、少し相手のことを怒っているとき、ちょっとガッカリした顔で "Maate" 「おい、おい…」といえます。

 最後に "Mate" は相手に頼みごとをするとき、とくに良心に訴えるときにも活躍します。日本語では「ちょっと…」を言うときにオーストラリアでは男であれば "Mate…" を使います。いざというとき、"Mate, please. I’ll pay you back. It’s just for a week!" 「お願い! 1週間だけだよ! 必ずお金を返すから…」のように言ってみては……?

● クリスの5分間オージースラングクイズ ●

1. 田舎で運転しているとき、道路の横に止まっている車と落ち込んでいる男がいる。車を止めると、彼は "Mate, can you give me a lift back to town? The donk’s carked it" と発言します。彼の車にはどんな問題がありますか?

A. パンクしていて、スペアーがありません。
B. エンジンがぶっ壊れてしまいました。
C. シフトレバーが動かない。

2. オーストラリア英語にはあだ名があります。そのあだ名とは…?

A. Strewth
B. Strange
C. Strine

3. 友達に「週末、何か予定がある?」と聞くと、友達は "Yeah, I’m gonna go out to the hills and do a little bush-bashing." と答えました。その "bush-bashing" はいったい何なんでしょうか。

A. 田舎に行ってやぶに突っ込む
B. ブッシュ元大統領をぶん殴る
C. オフロードをする

答え:
1. (B) "Donk" はAussie slangでエンジンという意味で、"carked it" はぶっ壊れた、あるいは死んだという意味。
2. (C) "Australian" を早く、濃いオージーアクセントで言うと "Stra-lian" になり、繰り返したら "Strine" になります。
3. (C) "Bush bashing" はアウトバックでオフロードするという意味です。

Chris Nicholls(クリス・ニコルス)

 父はイギリス人、母は日本人。日本で生まれ、幼少期をイギリスで過ごす。その後、家族でオーストラリア移住。英語教師の資格(CELTA)を取得し、日本の英会話学校で英語教師として2年勤務。2007年からはジャーナリストとして活躍。日本語も堪能なので、日本人が間違いやすい英語の指導に自信あり。

(2006年11月号 Dengon Netより更新)