クリスのオージースラング教室

英語の歴史や文化をふまえ、オーストラリアのスラングをご紹介。

クリスの使えるオージースラング教室 VOL.5

 公正、公平、あるいは正々堂々とする。そのほかにも、綺麗、大体、金髪、天気がいい日、にも使える言葉。それは"Fair"です。

 この言葉は、オーストラリアの歴史や文化に深く関わっていて、オーストラリアの社会思想の大黒柱といわれるほどです。その理由は過去に根源があり、現在の多様な社会にも存在するのです。

 今回は、この基礎的な言葉に関するオージースラングや歴史を紹介したいと思います。

今回は「Fair」

 第1回のオージースラング教室ではオーストラリアの厳しい過去に対して、様々な新しい俗語が生まれたことを紹介しました。歴史上、オーストラリア大陸に最初に上陸した白人はほとんど囚人で、植民地化された時から、イギリスとは違う、社会階級のない社会を作ろうとしました。その新しい社会の基本となった思想が "Fair go" という表現です。

 平等社会あるいは差別のない扱いという意味で、昔政治家はオーストラリア社会について話す際に、"Australia is the land of the fair go"、または "Everybody is entitled to a fair go"(差別のない社会はオーストラリア人全員の権利である)というように述べていました。生憎、現在のオーストラリア社会は貧富の差が大きく、本気でそのように発言してくれる政治家はかなり少なくなってしまいましたが、今年の総選挙でも、モリソン氏やショーテン氏は "Fair Go" を使っていましたので覚えておくと良いかと思います。

 その他、政府関係でのこの言葉の使用といえば、オーストラリア軍の "Army Fair Go Hotline" というケースが目立ちます。元々イジメやセクハラ対策としての電話相談サービスでしたが、現時点は全面的に不公平な案件対策として活躍しています。
そんな "Fair go" は間投助詞としても使え、相手が公平に扱ってくれないとき、"Fair go, mate!" や "Fair roll of the dice!"「チャンスをください!」と訴えるときにも使えます。

 また、きちんとする、本気な気持ちを表すときに、"Fair dinkum" を使います。本来イギリス北部のランカシャー州の方言から生まれた "Dinkum" は「仕事」という意味でオーストラリアに来ました。それで "Fair" を足し、"Fair dinkum" という表現が誕生。元々「ちゃんと働く」という意味の言葉になりました。19世紀後半の「ゴールド・ラッシュ時代」に来豪した中国人から伝わったという説もありますが、語源が広東語の "din kum"(金)から生まれた可能性はどうやら低いようです。

 この言葉、現在は "Fair dinkum"「マジ!?」というように使います。今はあまり聞きませんが、派生語の "dinky di"「本格的なオージー」という言葉もあり、"Dinkum" だけを使うと人や物の良さを表すことができるのです(例:"He was a real dinkum bloke")。

 最後に、勘違いが多いので挙げますが、国歌の "Advance Australia Fair" の "Fair" は「公正」ではなく、「綺麗」という意味で愛国心を込めた表現です。

Chris Nicholls(クリス・ニコルス)

 父はイギリス人、母は日本人。日本で生まれ、幼少期をイギリスで過ごす。その後、家族でオーストラリア移住。英語教師の資格(CELTA)を取得し、日本の英会話学校で英語教師として2年勤務。2007年からはジャーナリストとして活躍。日本語も堪能なので、日本人が間違いやすい英語の指導に自信あり。

(2006年8月号 Dengon Netより更新)