ビクトリア州警察幹部が治安の現状を説明
- 在メルボルン日本国総領事館で安全対策連絡協議会を開催 -
7月21日、在メルボルン日本国総領事館において、安全対策連絡協議会が開催された。
同協議会は、ビクトリア州に暮らす在留邦人の安全に関する最新情報を共有するとともに、地域内の日本人関連団体同士の連携を強化することを目的として、定期的に実施されている。
在メルボルン日本国総領事館から古谷総領事、八重樫領事班長、高橋領事兼警備対策官、大日向領事、協議会担当の根本氏が出席した。
また、日本人会、日本商工会議所、企業、教育機関、地域団体、留学エージェント、SNS運営者、メディアなど、幅広い分野から代表者が参加。日本人コミュニティーが直面する安全上の課題について、活発な情報交換が行われた。
今回の協議会では、ビクトリア州警察から、犯罪防止、地域連携、政府機関との協力などを担当するDeputy Chief Commissioner, Prevention, Community and PartnershipのTimothy Hansen氏を招き、ビクトリア州内の犯罪状況や警察の取り組みについて講話が行われた。
犯罪発生後の対応だけでなく、未然防止を重視
Hansen氏は冒頭、ビクトリア州が、さまざまな文化的背景を持つ人々によって形成された、多様で力強い社会であると説明した。
そのうえで、ビクトリア州警察にとって、多文化コミュニティーと緊密な関係を築くことは、重要な役割の一つであると強調した。
警察の仕事は、犯罪が発生してから犯人を逮捕することだけではない。
住宅や所有物を犯罪から守る方法を地域住民に伝え、行政機関、教育機関、福祉機関、地域団体などと協力し、犯罪が起きる前に防ぐことが重要だという。
Hansen氏が担当する部門でも、州政府やその他の政府機関、地域コミュニティーとの連携を進めながら、犯罪防止のためのさまざまな施策に取り組んでいる。
所有物を識別する「合成DNA」を導入へ
講話では、現在導入が進められている新しい防犯技術として、「合成DNA」が紹介された。
スマートフォンやノートパソコンなどの個人所有物に、固有の識別番号を持つ合成DNAを付けておくことで、盗まれた物が警察に届けられた場合、専用の機器を使って所有者を確認できるという。
識別番号と盗難届を照合することにより、盗難品を本来の持ち主に返却しやすくなる。
また、商業施設などに設置する合成DNAスプレーの試験も進められている。
店舗や事業所で侵入盗が発生した際、犯人が出口を通過すると、目には見えない微細な合成DNAの粒子が噴霧される仕組みだ。
この粒子は皮膚などに長期間残り、後に警察が専用機器で確認することで、容疑者を過去の侵入盗や強盗事件と結び付ける手掛かりになるという。
ビクトリア州警察では、今後6か月から12か月ほどかけて、こうした技術を州内に広げていく計画を進めている。
ビクトリア州警察は約1万5,500人
現在、ビクトリア州警察には約1万5,500人の警察官が所属し、メルボルンを含む州内各地で、犯罪への対応、捜査、犯罪防止、地域住民との交流に当たっている。
さらに、警察官ではない職員が約6,500人おり、事務、データ分析、科学捜査などの専門分野から、現場の警察官を支えている。
ビクトリア州警察では、重大犯罪を毎年5%削減することを戦略目標の一つに掲げている。
Hansen氏によると、今年に入ってから犯罪件数は約2%減少しており、過去4年間で初めて減少に転じたという。
現在進められている複数の捜査や犯罪防止策の成果を含め、年間5%削減という目標の達成を目指している。
犯罪件数を減らすことに加え、地域住民から警察への信頼を高めることも重要な目標とされている。
警察では毎年、市民を対象に、警察をどの程度信頼しているか、警察の活動をどのように評価しているかなどを尋ねる調査を実施し、改善すべき点を確認している。
若者犯罪は今年約6%減少
講話では、若者による犯罪やギャング犯罪についても説明があった。
若者犯罪は、過去数年間における犯罪増加の大きな要因の一つだったが、今年は約6%減少しているという。
ビクトリア州警察は、「オペレーション・アライアンス」や「オペレーション・トリニティ」などの夜間作戦を実施し、盗難車を運転する若者や、住宅への侵入盗などに関与する人物の取り締まりを強化している。
しかし、若者犯罪への対応は、警察による逮捕だけで解決できるものではない。
教育、メンタルヘルス、家庭環境、社会的孤立、青少年司法など、複数の問題が関係しているため、教育機関や青少年支援機関などと連携し、若者を必要なサービスにつなげることが重要だと説明した。
警察では、「Focused Deterrence」と呼ばれる取り組みも進めている。
犯罪への関与が懸念される若者の自宅を、警察官と支援担当者が訪問し、警察が行動を把握していることを伝えたうえで、支援を受けるか、犯罪を続けて逮捕や収監につながる道を選ぶか、人生の分岐点にいることを説明する。
Hansen氏によると、この働きかけを受けた若者の約25%が、その場で支援サービスを受けることを選んでいるという。
この制度は約18か月前から実施され、一定の成果を上げている。
家庭内暴力には「容認しない」姿勢
家庭内暴力への対応について、Hansen氏は、ビクトリア州警察が特に力を入れている分野の一つだと述べた。
家庭という外から見えにくい場所で行われる暴力を減らし、特に女性や子どもが安心して生活できるようにすることが重要だという。
家庭内暴力の通報があった場合、警察官が現場に出動し、危険度の評価を行う。
一定の危険性が認められた場合には、被害者を守るための介入命令や接近禁止命令などの手続きを進めるとともに、必要に応じて加害者を逮捕、起訴する。
ビクトリア州警察では、家庭内暴力に関連して、年間約1万6,500件の逮捕を行っているという。
また、子どもが幼い頃から家庭内で暴力を経験したり目撃したりすると、成人後の行動や犯罪への関与に影響する可能性があることから、早期の介入が極めて重要とされている。
警察官は、家庭内暴力、性的暴行、児童虐待などへの対応について、実践的な訓練を受けている。
警察学校には、実際の住宅を再現した家庭内暴力対応の訓練施設があり、緊張状態にある家庭へ警察官が入る状況を想定した訓練が行われている。
事件後には刑事手続きを進めるだけでなく、被害者や家族が必要な支援サービスを利用できるよう、関係機関とも連携している。
最も被害に遭いやすい犯罪は自動車盗難
Hansen氏は、ビクトリア州で市民が最も被害に遭う可能性が高い犯罪として、自動車盗難や車上荒らしを挙げた。
自動車盗難の一部は、若者のギャング犯罪や組織犯罪と関連している。
ビクトリア州警察では、組織犯罪を解体し、犯罪活動を妨害するための対策を強化しており、自動車盗難の減少につなげたいとしている。
昨年、ビクトリア州警察は約7万6,000件の逮捕を行い、5,000台を超える盗難車両を回収したという。
また、警察官を警察署の窓口内にとどめるのではなく、地域の道路や公共の場所に配置し、市民から見える形で活動することも重視している。
地域で警察官を見かける機会を増やすことで、犯罪の抑止と、市民の安心感の向上につなげる狙いがある。
オンライン詐欺にも注意を
近年、増加している犯罪の一つとして、オンライン詐欺も取り上げられた。
電子メールやSMSで送られてくるリンクを不用意に開いたり、送信元を確認しないまま個人情報や銀行情報を入力したりすることで、金銭をだまし取られる被害が増えている。
海外から送信される詐欺メッセージも多く、メールやSMSを受け取った際は、送信元が信頼できるかを十分に確認する必要がある。
オンライン上の安全対策については、オーストラリア連邦政府のeSafety Commissionerのウェブサイトでも、詐欺やオンライン被害を防ぐための情報が提供されている。
緊急時と非緊急時の連絡先
犯罪や不審な行動を目撃した場合には、状況に応じて適切な連絡先を利用する必要がある。
犯罪が現在進行中で、犯人が現場にいる場合や、人命に危険がある場合は「000」に連絡する。
緊急ではないものの、警察への届け出や相談が必要な場合は、Police Assistance Lineを利用する。
麻薬取引や組織犯罪などに関する情報を匿名で提供したい場合は、Crime Stoppersに連絡することができる。
また、各警察署には、地域の犯罪防止を担当するProactive Policing Unitが設置されている。
住宅の防犯、自動車盗難対策、公共の場所で安全に行動する方法などについて、相談や助言を受けることが可能だ。
地域によっては、担当者が住宅を訪問し、防犯上の改善点を確認する場合もある。
各地域では、地元警察の責任者と住民が直接話し合うNeighbourhood Policing Forumも開催されている。
高齢者を狙う詐欺や金銭搾取
質疑応答では、高齢者を対象とした犯罪について質問があった。
Hansen氏は、高齢者は詐欺や金銭の不正取得の被害に遭いやすく、介護者や家族が高齢者の資産を不正に取得するケースもあると説明した。
ビクトリア州警察には、高齢者を対象とした犯罪や、高齢者の安全を専門的に検討する州レベルの枠組みがある。
対象は介護施設で暮らす高齢者だけでなく、自宅で生活する高齢者も含まれる。
ビクトリア州警察のウェブサイトでは、高齢者が資産や預金、投資などを守るための情報が提供されている。
英語力不足による家庭内暴力の「加害者誤認」
質疑応答の中で、特に日本人コミュニティーに深く関係する問題として、家庭内暴力事件における被害者と加害者の誤認が取り上げられた。
家族法を扱う法律関係者から、家庭内暴力の被害を受けた日本人女性が警察へ通報したにもかかわらず、英語で十分に事情を説明できなかったため、逆に加害者として扱われた事例があるとの指摘があった。
一方、英語を流暢に話す配偶者の説明が警察に受け入れられ、日本人女性が起訴されたり、自宅から退去させられたり、子どもと離れて暮らすことになったりするケースがあるという。
これに対しHansen氏は、英語での意思疎通が難しい場合、警察官には、その場で電話通訳サービスを利用するよう指導していると回答した。
複数の言語を話せる警察官が対応できる場合もあるが、基本的には、必要に応じて通訳を利用することが推奨されている。
また、被害者と加害者を誤って判断する問題は、「Misidentification」と呼ばれ、ビクトリア州警察も実際に存在する課題として認識していると明言した。
現在は、家庭内暴力事件について、独立した立場の巡査部長が初期対応を確認し、誤認が起きていないかを審査する仕組みが設けられている。
誤認があったと考えられる場合、本人や弁護士、支援者は、各地域に配置されているFamily Violence Liaison Officerに連絡し、警察の初期対応の再確認を求めることができる。
英語力の不足が判断に影響した可能性がある場合も、状況を再審査し、誤認が確認されれば訂正のための対応が行われる。
家庭内暴力の被害に遭った際、英語で十分に説明できない場合には、遠慮せず通訳を求めることが重要である。
また、警察の判断に疑問がある場合には、そのまま諦めるのではなく、Family Violence Liaison Officerや弁護士、支援団体などに相談する必要がある。
日本人コミュニティーとの連携を確認
講話の最後に、Hansen氏は、ビクトリア州には約2万2,000人の日本国籍者が暮らしていると古谷総領事から聞いたことに触れ、日本人コミュニティーはビクトリア州社会を構成する重要な存在であると述べた。
そのうえで、日本人コミュニティーが安心して生活できるよう、今後も警察と地域社会との連携を続けていく姿勢を示した。
今回の協議会では、犯罪件数や警察の取り組みを知るだけでなく、家庭内暴力、英語力の問題、高齢者を狙う犯罪、オンライン詐欺など、日本人が実際に直面する可能性のある課題について、具体的な情報が共有された。
在留邦人の安全を守るためには、総領事館や警察だけでなく、日本人会、企業、教育機関、地域団体、留学関係者、メディアなどが、日頃から情報を共有し、必要な人を適切な支援先につなぐことが重要である。
今回の安全対策邦人連絡協議会は、その連携を改めて確認する有意義な機会となった。

