メルボルンで日本人が巻き込まれている犯罪の実態
― シェアハウス詐欺を中心に見る被害構造と、いま知っておくべき対策 ―
(邦人安全対策協議会 講話・質疑応答より)
2026年1月29日、在メルボルン日本国総領事館で開催された邦人安全対策協議会では、元ビクトリア州警察刑事・小沼有紀氏より、現在メルボルンで発生している犯罪、とりわけ日本人が巻き込まれやすい事案について、具体的な解説が行われた。
本記事では、その講話および質疑応答をもとに、日本人被害が多い犯罪の特徴と構造を整理する。
フィッシング詐欺は“入口”にすぎない
現在最も多い犯罪の入口は、メールやSMSによるフィッシング詐欺である。
銀行、ATO、Australia Postなど実在する企業を装い、
・「本日中に対応してください」
・「24時間以内に確認しないと停止されます」
といった文言で緊急性を煽り、リンクやQRコードから偽サイトへ誘導する。
被害者はそこでログイン情報や個人情報を入力してしまい、情報が抜き取られる。
重要なのは、この時点では被害者自身が「被害に遭った」と気づかないケースが多い点だ。
個人情報は“犯罪インフラ”として再利用される
盗まれた個人情報は単なるクレジットカード不正利用に留まらない。
小沼氏は、警察捜査の現場で実際に確認してきた悪用例として、
・なりすまし銀行口座の開設
・マネーロンダリング
・携帯電話の飛ばし利用
・SNSアカウント乗っ取り
などを挙げた。
本人が知らないうちに銀行口座が作られ、犯罪資金の受け皿として使われるケースも珍しくない。
この段階になると、被害は金銭面だけでなく、生活や信用にも深刻な影響を及ぼす。
ダークウェブで売買される日本人の個人情報
小沼氏は国際捜査の経験にも触れ、ダークウェブ上で個人情報が商品として売買されている現状を説明した。
2023年には世界22カ国が関与する大規模摘発が行われ、オーストラリア国内でも拳銃、麻薬、SIMボックス(大量SMS送信装置)が押収された。
詐欺はもはや個人犯罪ではなく、国際的な組織犯罪の一部として成立している。
日本人被害が突出して多い「シェアハウス詐欺・賃貸詐欺」
協議会の質疑応答で最も時間が割かれたのが、シェアハウス詐欺・賃貸詐欺だった。
これは現在、メルボルンで日本人が最も多く巻き込まれている犯罪の一つである。
■典型的な手口
・SNSや掲示板に魅力的な物件を掲載
・「すぐ決まる」「デポジットで押さえて」と急かす
・デポジット送金後、連絡が途絶える
・物件自体が存在しない、または他人の写真を流用
被害者は数百〜数千ドルを失う。
なぜ日本人が狙われるのか
小沼氏および協議会参加者からは、以下の構造が指摘された。
① 来豪直後で住居探しを急いでいる
ワーキングホリデーや留学で来たばかりの人は、
「まず住む場所を確保しないと何も始まらない」
という心理状態にある。
冷静な判断が難しくなり、
・安い
・立地が良い
・日本語対応
といった条件に引き寄せられやすい。
② SNSは審査なしで投稿できる
SNSなどでは誰でも物件投稿が可能。
さらに最近は、
「日本人に投稿を代行させる(代理投稿)」
という手口も増えている。
表面上は日本人アカウントだが、背後に詐欺グループがいるケースも確認されている。
③ 被害者が声を上げない
最大の問題はここだ。
多くの被害者が、
・恥ずかしい
・諦めた
・仕返しが怖い
と考え、警察にも周囲にも相談しない。
そのため実際の被害は表に出てくる数字の何倍も存在すると考えられている。
協議会では、
「これは完全に氷山の一角」
という表現が使われた。
犯人側の口座リストに“多数の日本人名義”
小沼氏は、過去の捜査経験として、
詐欺犯グループが使っていた銀行口座の名義リストの中に、日本人名義が多数含まれていた
ことを明かした。
これは、
・日本人が被害者・加害者になっている
・日本人名義口座が犯罪の踏み台にされている
両方の可能性を示している。
「返金されない」それでも通報が必要な理由
賃貸詐欺では、被害額が戻らないケースがほとんどだ。
犯人が捕まっても資力がなく、裁判で返還命令が出ても実行されない。
それでも通報が重要な理由は、
・捜査対象として認識される
・手口の共有につながる
・次の被害者を減らせる
からだ。
通報がなければ、犯罪は「存在しないもの」として扱われてしまう。
被害に遭った場合の実務的対応
協議会で共有された対応手順は以下。
-
銀行・カード会社へ即時連絡
-
すべての関連パスワード変更
-
ReportCyberへの通報
-
必要に応じて総領事館や支援団体へ相談
ReportCyberは州をまたぐオンライン犯罪にも対応できる公式窓口であり、警察への情報共有につながる。
性犯罪や暴力被害は「表に出にくい」
協議会では、性犯罪や暴力被害についても触れられた。
これらは金銭被害以上に深刻だが、
・本人が話せない
・身元を知られている
・報復が怖い
といった理由で相談に至らないケースが多い。
だからこそ、「最初に相談できる場所」の重要性が強調された。
いま必要なのは“最初の窓口”
今回の協議会を通じて共有された最大の課題は、
困ったとき、最初に相談できる場所が日本人コミュニティーに存在しない
という点だった。
オンライン情報だけでは限界があり、
・誰かに直接話せる
・状況を整理してもらえる
・専門家につないでもらえる
そうしたリアルな窓口の必要性が、強く認識された。
最後に
メルボルンで起きている日本人被害は、決して他人事ではない。
詐欺は誰でも引っかかる可能性があり、
住居詐欺は来豪直後の誰にでも起こり得る。
そして被害者が声を上げなければ、犯罪は静かに拡大していく。
この現実と情報を共有し、相談できる場所をつくることが、次の被害者を生まないための第一歩となるであろう。
