外務省 岩本領事局長・古谷メルボルン総領事に聞く
安心して海外に暮らし、学び、働くために
—— 現地からの声に耳を傾けて ー
2025年8月、外務省の岩本領事局長がメルボルンを訪問。
Dengon Netではこの機会に、古谷メルボルン総領事とともに、お二人に現地でお話をうかがいました。
岩本局長は米国での長期駐在を経験し、現地で子育て・学校教育にも関わった経験をお持ちです。古谷総領事も長年にわたりオーストラリアに駐在し、実際の海外生活に精通しています。
制度論にとどまらない、“暮らしの実感”に基づいたお話をお届けします。
■ 「登録は命を守る第一歩」
「たびレジや在留届の登録は、安全・安心を支える大切なインフラです。
私たちからも繰り返しお願いしています」
——岩本領事局長
緊急事態時に備えるには、情報登録が基本。局長自身の海外生活の経験からも「つながっている」という感覚が心の支えになると語ります。
実際に海外で暮らしてみると、言葉の壁、文化の違い、予測できないトラブルなど、さまざまな課題に直面します。そうした中で、「行政とつながっている」という安心感は、心理的な支えにもなります。登録は“万が一”のためではなく、“ふだん”を守る仕組みでもあるのです。
「特に若い方や短期滞在の方は、登録の必要性を実感しづらいかもしれません。でも、もしものときに“登録しておけばよかった”とならないよう、ぜひ今のうちに済ませておいてほしいです」
——岩本領事局長
■ 若者の海外離れに歯止めを
「2024年3月から新しいパスポートも発行されています。ぜひこれをきっかけに、もっと外の世界に踏み出してほしい」
——岩本領事局長
若年層の渡航者が減少傾向にある中で、外務省は“もっと海外へ”キャンペーンを推進中。治安の良いオーストラリアは挑戦に最適な場であり、自らの経験を通して得た学びは人生を豊かにすると語られました。
「すぐにすべて解決できるわけではありませんが、何かの手がかりになるかもしれない。声が届けば、動けることもあります。ぜひ相談してください」
——岩本領事局長
「海外での挑戦は、決して特別な人だけのものではありません。少しの勇気が、自分の可能性を大きく広げる一歩になります。まずは“行ってみよう”という気持ちを持ってもらえたらうれしいです」
——岩本領事局長
さらに局長は「今の若い方々には、内向きな傾向が強いとも言われていますが、実際には可能性を広げる意欲を持っている方も多い」と述べ、体験の共有がそうした気持ちを後押しすることに期待を寄せていました。
■ 教育の都市・メルボルンとの連携
「学びの拠点としての強みを、日本とつなげていきたい」
——古谷メルボルン総領事
古谷総領事が注目するのは、メルボルンに集まる教育機関。日本との学術交流や人材連携の可能性にも期待を寄せています。
「教育を軸にした連携は、人と人をつなぐ非常に有効な接点になると考えています。学生や研究者に限らず、教育現場に関わる保護者や地域の日本人コミュニティにも、波及効果があるはずです」
——古谷メルボルン総領事
「メルボルンには、さまざまな専門性やバックグラウンドを持つ日本人が集まっています。そうした方々と地元の教育機関や自治体との橋渡し役を担うことも、私たちの大切な役割の一つです」
——古谷メルボルン総領事
■ 支援体制の課題と展望
「一人で抱え込まないで。早い段階で相談してほしい」
——岩本領事局長
性被害、労働トラブル、生活困窮……さまざまな課題に直面する中で、敷居の低い相談窓口の整備が重要と強調。地域団体との連携や体制づくりに向けた課題も率直に語っていただきました。
「行政は敷居が高い、そう思われる方も多いかもしれません。ですが、私たちはできるだけ近い存在でありたいと考えています。遠慮せず、頼っていただきたい」
——古谷メルボルン総領事
「声を上げるのは勇気がいることです。でも、その一歩が事態の悪化を防ぐ鍵になります。もし何か違和感を覚えたら、迷わずご相談いただきたいと思います」
——古谷メルボルン総領事
特に深刻なのは、「相談したいと思っても、どこに・どう頼ればいいか分からない」という声。領事館だけで支えきれない場面もあるからこそ、支援の“入り口”を地域に広げる必要性が浮き彫りになりました。
■ 経験は“つなぐ”もの
「海外での経験を、ぜひ日本でも発信してください。良い経験も、困難な出来事も、誰かの支えになります」
——岩本領事局長
「実際に現地で暮らした人の声には、他のどんな情報よりも説得力があります。ぜひ同世代の若者に向けて、その経験を語ってほしい」
——古谷メルボルン総領事
特別なことを語らなくても、自分の感じたことをそのまま伝えるだけで十分。そのリアルな声こそが、未来の選択肢を広げる力になるのかもしれません。
「体験の発信が連鎖していくことで、“あの人が行けたなら、自分にもできるかもしれない”という前向きな空気が生まれていく。それこそが、日本の国際化にとって重要な土壌になるのだと思います」
——岩本領事局長
あなたの経験が、誰かの力になる
一人で悩まず、まずは声をあげること。それが支援の第一歩です。
海外に暮らす日本人一人ひとりの安心と挑戦を、行政・地域・民間が連携して支えていく。
Dengon Netは、これからも「現場の声」を伝えていきます。
※この記事は2025年8月、在メルボルン日本国総領事館にて実施されたインタビューをもとに構成しています。