Page 6 - Dengonnet Magazene 2025
P. 6
「尺八って知っていますか」と聞くと、ご老 そんな竹が音楽として楽しまれているなんて、なんと素敵なことだろうと演奏者として心
人の方々が趣味で吹いているような楽器 から思います。
でしょ!?と知っている方はそうおっしゃいま
す。同世代の日本人に聞くと、音を聞いたこと 尺八の歴史ですが、尺八の原型は奈良時代に唐から伝来しました。そして日本で独自に
がなかったり縦笛なのか横笛なのか曖昧な 進化したものが今の尺八にあたります。最初は雅楽の楽器の一つとして尺八は演奏され
答えが返ってきます。しかし興味深いことに、 ていましたが、いつしかその姿は消えてしまいました。そして尺八が再度スポットライトを
オーストラリアではアニメの導入ソングで聞 浴びることになったのが虚無僧の出現です。虚無僧とは普化宗と呼ばれる天蓋を被った
いたことがあって、「いいなって思ったからリ 僧侶であり、尺八は彼らのための楽器となりました。虚無僧の時代の後は宮廷や大衆に
サーチしていて知ってるよ」と思いもよらぬ答 親しまれる楽器として現在まで続いています。三味線や箏と合奏する三曲というスタイル
えが返ってきます。中には「尺八を自分で作っ も確立されました。
てみた」などと驚かされることばかりです。
駆け出しの尺八奏者ながら尺八の特徴や歴史について書かせていただきましたが、少し
日本の文化が海外で認知されていることや 尺八に興味を持っていただけたでしょうか。ここまで読んでいただいた方にはこの場を借
賞賛されていることに喜びを覚えながらも、 りて感謝申し上げます。皆様にはぜひ一度尺八の音色を聴いていただきたいです。嬉しい
日本人の伝統離れには、少し淋しさを感じ ことに私の演奏を聴いてくださった方には「懐かしい気持ちになった」や「一周回って新
ます。 しさがある」などとご感想をいただいています。微力ながらも日本の伝統を継承していき
そのような中、Dengon Net様からこのよう たい、たとえそれが海外であってもできることであると証明し続けたいという思いで演奏
な貴重な機会をいただけたことに感謝するとともに、日本の伝統芸能を担う者の一端と やワークショップを続けていきたいと思っています。
して、少しでも読者の皆様に尺八の面白さをお伝えするべく、責任も感じております。
尾葉石 真理子
尺八は五つの指孔(あな)で演奏できる楽器です。西洋楽器と比べてかなりシンプルな 尺八雅号を凛道として尺八演奏を行う。
作りだと思いませんか。しかし、尺八で音を出すのはなかなか難しいのです。私も唇の形
を作ったり、息の強弱をつけられるまでは鏡を見たり先生の口の形を真似したりなど、 九州系琴古流尺八奏者。15歳から叔父である若菜会会長・三
「音」を出すまでに苦労をしました。尺八の稽古を始めたばかりの頃は頑張って息を吹 代目釼虚霧洞氏から尺八の手ほどきを受け、琴古流宗家竹友社
き込みすぎて酸欠になったこともあります。シンプルなように見えて、一筋縄ではいかない 川瀬庸輔氏のもとで学ぶ。現在はオーストラリア、メルボルン、東
のが尺八です。もし、読者の皆様のなかで「すぐに音が出た!」という方はすぐに尺八の 京、熊本を拠点とする。パフォーマンスのみならずメルボルン大
道に進んでください。あなたは尺八界のスーパースターの卵かもしれません。 学にてゲストスピーカーをするなど日本の伝統音楽の普及啓発
に努める。
さて、尺八はなぜ「しゃくはち」と呼ばれているのか理由をご存じでしょうか。実は尺八
の長さが名前の由来です。昔の日本の長さの単位である「一尺八寸」からきているからで
す。おおよそ54cmの長さを表しています。しかし、尺八にもいろいろな長さがあり、長さ
によって音が高くなったり低くなったり、幅広いバリエーションの楽器なのです。
また尺八は竹でできている楽器です。私自身、竹と聞くとアジアのものという印象が強
いですが、オーストラリアで暮らす中で、さまざまな国で作られた竹を使った楽器と出
会いました。「コンドルは飛んでいく」でお馴染みの南米楽器ケーナは竹で作られていま
す。アフリカのピグミー族の、たった一音のみで演奏する笛も竹で作られています。私は
世界中にある竹の楽器に興味が湧き、世界中になぜ竹があるのか調べました。竹は頑
丈な植物でどんな環境にも耐え抜くことのできる強い植物でもあります。しかし、管理の
難しい植物でもあるのです。私はこの事実を知り、竹は人に寄り添うように生える植物な
のだなと感じました。実際に昔からお箸や物干し竿、炭としてなど、人々に寄り添い、最
近では洋服や歯ブラシなどとして自由自在に形を変えながら私たちの生活に根付いてい
るのです。
6