Page 5 - 201610
P. 5

ないというのは現実的でないような気がします。今私達がするべきことは、現状の改善よりも、  そしてリサイクルの多様化から、従来の製品の使用や廃棄に伴う有害物質の排出の有無、処

まずは現状を悪化させないことではないでしょうか。                                                          理の容易性など一定事項だけを評価するのではなく、製品に関する資源の採取から製造、使用、

 マイクロプラスチックに関して言えば、個人が海上に漂っているマイクロプラスチックを回 廃棄、輸送などすべての工程を通して、環境影響を客観的に評価するしようという動きもあり

収することは難しいけど、マイクロプラスチックやそのもとになるプラスチックゴミを、海に ます。それが、ライフサイクルアセスメント(LCA)です。下記は、リサイクルによる地球温暖化

流さないようにすることは可能だと思います。具体的には、マイクロビーズとも呼ばる、ポリエ の原因とされる二酸化炭素(CO2)排出の環境負荷を図にしたものです。

チレンやポリプロピレンなどで作られた0.001~0.1mmの球状のスクラブ剤の入った洗顔剤

やボディウォッシュ、練り歯磨きを使わないこと。なんと1チューブに数万個のマイクロビーズ LCAによる環境負荷の考え方

が入っているとか。プランクトンが飲み込める程のこの小さなプラスチックが、毎日あなたの

家の排水溝を通って川に流れ込み、排水処理施設では除去できず、そのまま海に流れ込んでい                                                 CO2        CO2       CO2      CO2     CO2

き、食物連鎖の輪に入っていきます。年間数百トンにおよぶマイクロビーズが、海に流れ込んで                                       リサイクルする  「ベール※3」に   リサイクル     再生パレット   再生パレット  廃棄処分
いると言われています。洗顔剤や歯磨き粉を買う際に一人ひとりが気にするだけで流出が防げ                                                      して運ぶ      工場        を作る   が使われる

るのです。国によってはマイクロビーズに対し使用規制や禁止の法案を出しています。そして                                                 廃棄処分 CO2
地味ですが、散乱ゴミを減らすためのゴミ拾い。陸のゴミが海に流れ着くのなら、目の前のペッ

トボトルを1本拾うだけで、数百個のマイクロチップの流出を防いでいることになりますよね。 リサイクルしない                                       新品の生産工程

 既に実践している人も多い、レジ袋の替わりに何度でも使えるエコバッグを使うことは、ゴ                                                 資源の採取      プラスチック    パレットを    パレットが   廃棄処分
ミを減らすことだけでなく、石油の無駄使いを減らすことにもなります。ポリエチレンから作                                                                  製造      作る    使われる

られるレジ袋はオーストラリア国内で年間約130億枚。これは原油に換算すると約3億4千万                                                CO2        CO2       CO2      CO2     CO2

リットル。すごい量が減ることになります。                                                              ※3 ベール: 廃プラスチックを圧縮してひとまとめに梱包し、運搬や集積をしやすくしたもののこと。

 5Rを再確認                                                                            リサイクルする・しないにかかわらず、すべての工程でCO2が発生するので、一見リサイクル
                                                                                  しない方が環境に良さそうですが、リサイクルしない場合は、新品の生産工程を追加しなけれ
 今までプラスチックの問題解決として言われて来たのは、Reduce、Reuse、Recycleの頭文                                ばなりません。LCAの観点で見てみると、リサイクル製品は資源節約や環境負荷の低減に貢献
字をとった3Rでしたが、最近は更にAvoidもしくはRefuse、Rebuyが加えられています。新し                                していることが容易に分かりますよね。また、リサイクル方法によってCO2の排出も異なること
く加わった言葉から、それぞれの意味を確認しておきましょう。                                                     から、リサイクルの発想が「集めた物をどうリサイクルか」から、「目的のリサイクルに合わせて
                                                                                  何をどう集める」へ変わりつつあります。
REFUSE / AVOID 必要のないものは受け取らず、ゴミになりそうなものはなるべく買わな
いようにすること。エコバッグを持参する、コーヒーのテイクアウェイはマイカップを利用す                                         廃プラスチックの行方
る、トレーを使わないバラ売りの商品を購入するなど。
REBUY リサイクル商品を購入すること。他の製品よりもちょっぴり値段が高めですが、多く                                       オーストラリアでも近年、環境問題に対して関心が高くなっているようで、国全体のリサイ
の人がリサイクル商品を購入することによって、リサイクルの循環が良くなります。                                            クルゴミの回収が多くなっています。それ自体は喜ばしいことなのですが、回収したリサイク
REDUCE ゴミの量を減らすこと。Avoid / Refuseと似ていますが微妙に違い、使い捨てでは                               ルゴミの約半分は海外に送られています。主な輸出先は、中国、インド、アフリカ。中でも中国は、
なく詰め替え商品を買う、個別包装ではなく大袋を買う、壊れかけのものは修理して使うなど。                                       世界で最も大きなリサイクル業国で、国際市場の約70%のリサイクル可能プラスチックと電子
REUSE ゴミとしてすぐに捨てずに、繰り返しまたは違う用途で使うこと。テイクアウェイで                                      廃棄物を輸入しています。但し、そこで行われるのは、ずさんな管理下のリサイクル。分別作業
使用される容器を洗って再利用する、アイスクリームやヨーグルトなどの容器を幼稚園やチャ                                        に携わる従業員は、特別なマスクも支給されず有害物質にさらされっ放し、作業に使用された
イルドケアなどに工作の材料として寄付するなど。                                                           汚水はなんの処理もされないまま川に流され、汚染が広がっているのが現状のようです。数年
RECYCLE 廃棄されたゴミの中から有用な素材を取り出し、処理を加えて新たな製品を作り                                      前 に こ の 中 国 の 廃 棄 物 に よ る 環 境 汚 染 問 題 を 取 り 上 げ た ド キ ュ メ ン タ リ ー 映 画『 P l a s t i c
出すこと。ペットボトルからフリースジャケットを作ることなどが、これに当たります。ちなみ                                       Kingdom』は、世界中の人々に大きなショックを与えました。興味のある方は、是非チェックし
に、ペットボトル25本で、大人のフリースジャケット1着分になるそうです。                                              て下さい。環境問題は、その国だけでなく世界的な問題です。正しくリサイクルされていないの
                                                                                  が分かっている場所に、それを委託するのはどうかと思うのですが…。
 ところで皆さん、下のマークは、プラスチックの材質を示すマークで、リサイクルとはあまり
関係がないって知っていましたか? 一般的に、1~3はリサイクル可能と言われているので、き                                       進んでいるプロジェクト
ちんとリサイクルに出しましょう。4~7は、できる限り捨てずに再使用を心掛けましょう。
                                                                                   現在、石油の使用削減や廃棄問題、地球温暖化を考慮し、石油以外のものからプラスチックを
資源として廃プラスチックを再利用する方向に                                                             製造する研究が進められています。その中で最も進んでいると言われるのが、トウモロコシや
                                                                                  サトウキビなどの植物由来の原料から作られるバイオマスプラスチック。難しいことは分から
 最近ではリサイクルの認識の変化や技術の進歩で、従来の廃プラスチックから新たにプラス                                        ないのですが、自然にかえる地球に優しいプラスチックなのは、想像できますよね。これが、流
チック製品を作り出すマテリアルリサイクルの他、廃プラスチックを化学的に分解して化学原                                        通すればかなりの問題が解決されるのではないでしょうか。更には、プラスチックだけでなく
料にするケミカルリサイクル、廃プラスチックを燃料や焼却して熱エネルギーを回収するサー                                        ガラスの代替にもなり得る透明な木材、ポストプラスチック原料として、プラスチックと廃棄
マルリサイクルも実用化されています。                                                                古紙を原料としたパウダーを混成した素材などが開発されています。また、プラスチックの寿
                                                                                  命を延ばすという観点から、自己修復製プラスチックも研究されているとか。どのように修復
プラスチックのリサイクル方法とそこからできるもの                                                          するのでしょうか。なんだか生物みたいですよね。

マテリアルリサイクル          プラ製品化     ●PETボトル→ユニフォーム、カーペット、事務用                             環境先進国と言われるドイツでは、ある会社がリサイクルマークを発行し、商品を生産する
廃プラスチックを原料                       品、家庭用品、卵などのパック、洗剤ボトルなど                           企業がリサイクルマーク使用料を会社に払い、この使用料で回収とリサイクルを行っています。
としてプラスチック製          原料・モノマー化                                                      これは経済協力開発機構(OECD)が提唱した拡大生産者責任という考え方に基づいた、企業が
品に再生する手法。「材         高炉原料化     ●トレイ→リサイクルトレイや文具など                                  廃棄やリサイクルまで責任を負うということ。リサイクルの難しい素材を使う程リサイクル
料リサイクル」とも言い         コークス炉     ● そ の 他 の 混 合 プ ラ ス チ ッ ク → 再 生 樹 脂( 原              マークの使用料が高くなるため、製造業者や流通業者はよりリサイクルのしやすい素材を使う
ます。                 化学原料化                                                         ようになり、リサイクルの困難なプラスチック使用が減少し、ゴミ全体が減っているそうです。
                    ガス化          料)、パレット、土木建築資材、工業用品など
ケミカルリサイクル                                                                          オランダでは、海洋プラスチックゴミを資源として利用するという発想の転換から、100%
廃プラスチックを化学                    ボトル to ボトル(ボトルからボトルへの再生)                            再生プラスチックでできた道路という、ユニークなプロジェクトが立ち上がっています。とは
的に分解するなどし                     製鉄所で使う還元剤                                           言え、実現には至っておらず、滑りやすさや歩きやすさ、耐久性などのテスト、更には火災が起
て 、化 学 原 料 に 再 生 す                                                                きた時にはどうなるのかなど、クリアしなければならない課題もたくさんあるようです。捨て
る手法。                          コークス、炭化水素油、コークス炉ガス                                  ればただのゴミですが、うまく使えば資源になる。再生可能な力を追求する興味深いプロジェ
                                                                                  クトなので、是非実現して欲しいです。
                    油化        水素、メタノール、アンモニア、酢酸などの
                              化学工業原料、燃料                                            最後に
                              生成油、燃料

ガス化・油化は、燃料として再利用する場合は「サーマルリサイクル」ということもできます。                                        いろいろ調べてみた個人的感想を。プラスチックは、私達の暮らしになくてはならない素材
                                                                                  のひとつになっています。どう頑張っても避けれない程、身近な存在ですよね。プラスチックを
サーマルリサイクル           固形燃料化     RPF※1など                                             使うことは問題がないというか、むしろ有効なことが多いように思います。
廃プラスチックを固形                    セメント製造時の原燃料※2
燃料にしたり、焼却して         セメントキルン   温水(温水プール、浴場)、暖房、電気など                                 プラスチックを巡る問題は、プラスチック自体が良い・悪いというのではなく、廃棄の問題に
熱エネルギーを回収す          原燃料化                                                          尽きるようです。これからは、生産者は廃棄処理のことも考えた製品設計を、消費者はそれぞれ
る手法。熱回収、エネル                                                                       に適した廃棄やリサイクルを、自治体や国は廃棄・リサイクル処理の管理・監視を強化すること
ギー回収とも言います。         ごみ焼却熱利用・                                                      で、現状を変えていけるのではないかと思います。限りある資源を大切に使い、次の世代へと残
                    発電                                                            していきたいものですね。

※1 RPF:マテリアルリサイクルが困難な古紙と廃プラスチック類を原料とした高カロリーの固形燃料。
                        ※2 原燃料: セメントキルン(セメント製造用の回転式窯)で燃焼補助剤として使われ、
                                                  燃えた後の灰はセメント原料の一部としてリサイクルされるもの。
   1   2   3   4   5   6   7   8   9   10