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ちょっとだけ
プラスチックを考える。
     皆さん、『マイクロプラスチック』という言葉を聞いたことがありますか? それは、直径5mm以下のプラスチックゴミのこと。現在、このマイクロプラスチックが海洋を漂い、さまざま

な生物への影響が懸念されています。昨年のG7ではマイクロプラスチックによる海の汚染問題が取り上げられ、更に国連環境計画から発表された「世界で新たに生じている環境問題」と

題する報告書の中にも、この問題が盛り込まれていました。

 頭の中では「これは大変なことに違いない」と分かっていても、今ひとつピンとこないのでは。そもそもプラスチックってなんなのか? 身の回りにどれぐらいのプラスチック製品が

あって、どれぐらい消費しているのか? 考えれば考える程、疑問が増すばかり。そこで、環境のことを踏まえつつ、プラスチックについて考えてみましょう。                                        (編集・まとめ/冨)

    参考:(社)プラスチック循環利用協会(W: pwmi.or.jp), Clean up Australia (W: cleanup.com.au)

プラスチックの基礎知識                                                                    プラスチックを巡る問題

 私達の身の回りに溢れるプラスチック。現代生活を送る上で欠かせない素材ですが、『プラス  私達が日々、大量に消費するプラスチックの廃棄を巡る問題が取り上げられて久しいのです

チックとは?』を語れる人は少ないのでは? そこで、まずプラスチックの基本を見ていきます。 が、今までにどんなことが問題になっていたのでしょう。オーストラリアは広大な土地がある

                                                                               ので、いまだにプラスチックゴミはほぼ埋め立て処理をしています。しかし、国土の広くない国

 プラスチックの歴史は浅く、1835年にポリ塩化ビニル粉末の発見が最初と言われています では、埋め立てる土地を確保するのが困難だったり、埋立地と居住地が近いところでは、ゴミか

が、商業ベースに乗ったのは、1868年にビリヤードの玉の素材としてアメリカで開発されたセ ら徐々に有害物質が地中に溶け出すのではないかと問題視されました。そこで、埋め立てから

ルロイド。その後わずか約150年の間に、すごい勢いで数々の種類のプラスチックが開発され、 焼却へと処理方法の変換が図られましたが、古い焼却炉ではパイプや建材などに使われるポリ

便利で利用しやすいことから世界中に広まっていきました。今では家庭用品や包装材料をはじ 塩化ビニルなど塩素の入ったプラスチックが不完全燃焼し、ダイオキシンなどの有害物質を発

め、電化製品、情報機器、医療器具、自動車、住宅資材や建材、農・水産業など幅広い分野の製品が 生しやすいことなどが問題に…。

プラスチック化されています。ちなみにプラスチック(Plastic)の語源は、ギリシャ語の“成長す  でも、現在は高熱焼却が可能な施設の建て替えや改造が進み、有害物質の発生を抑えると共

る”や”形作る”という意味のプラステイコス(Plasticisers)で、柔らかく形を変えやすい特徴を に、排気ガス装置などで有害物質が空中に放出されないようになっています。

表しています。

 プラスチックは、石油を原料として人為的に製造された、主に炭素と水素からなる高分子化  また、きちんと廃棄されたゴミの他に、山や海、川などでポイ捨てされたり、知らないうちに

合物だそうです。う~ん、難しいので、元素のことは置いておいて。ここでは、簡単に原油がプラ 落ちてしまった散乱ゴミは、見た目に悪いだけでなく、そこに棲む生物に有害なのは皆さんも

スチック製品になるまでを図にしてみました。                                                          知るところ。海中に漂っているビニール袋などを誤食してしまったり、ゴミが体の一部に引っ

                                                                               掛かってしまった動物のニュースを見るたびに、心が痛みますよね。

原油がプラスチック製品になるまで

                                                                                そして、ここ数年で新たな問題として浮上してきたのが、リードでも書いたマイクロプラス

原油  石油製品        石油科学基礎製品  プラスチック     プラスチック製品                                  チック。ドリンクボトルのプラスチックホルダーやレジ袋、釣り糸や漁網などは、目に見えやす

         ガソリン             主なプラスチック   プラスチック製品の例                                く他の生物への影響も想像しやすいのですが、この小さな小さなゴミの影響は想像しづらいの
                                                                               ではないでしょうか。まずは、どのようにマイクロプラスチックが作られ、海に広がるのかを見

         灯油     エチレン      ポリエチレン     フィルム、食品容器                                 てみましょう。
                プロピレン     ポリプロピレン    自動車部品                                      マイクロプラスチックのもととなるプラスチックのゴミの多くは、陸に捨てられたゴミが

原油       ナフサ    プタン・プチレン  塩化ビニル樹脂    水道管、ホース                                   川を経由して海に流れ込んだものと言われています。目に見える大きなゴミが、海面に浮かび
            経由  芳香族その他    ポリスチレン     食品トレイ                                     波の力で岸に運ばれ、海岸に打ち上げられます。そこで太陽光にさらされたり、岩や砂にもま
                          その他熱可塑性樹脂  PETボトル                                    れて小さく砕けて、再び波にさらわれて海に出て行きます。小さくなったプラスチックの破片
                          熱硬化性樹脂     電気製品、浴槽

         重油 は、海面に浮かびにくいので、岸に打ち寄せる波の力を受けずにどんどん沖に広がっていきま

                                    ※ナフサ: 原油を精製したもの す。そして海中に漂いながら、更に小さく、小さく砕けて5mm以下のマイクロプラスチックに

                                                                               なります。

 さまざまな素材に取って代わったプラスチックですが、もちろん万能というわけではありま

せん。プラスチックの主な長所と短所を挙げてみましょう。長所は、なんといっても成形しやす  多くの人は、目に見えなくなると「分解されてなくなったのかな」と、思ってしまいますが、こ

く大量生産が可能なところ。大量生産することによってコストダウンが図れるのは、生産する こがプラスチックの怖いところ。どんなに目に見えないぐらい小さくなっても、しっかり存在

側にとっては魅力的なハズ。軽くて丈夫なところは、製品を使う側にもうれしい特徴ですよね。 しているのです。1mm以下になってしまうと、食物連鎖の底辺にいる動物性プランクトンが間

サビたり腐食しないことや衛生的で遮断性が高いことは、食品の保存にピッタリ。他にも、断熱 違えて食べてしまう可能性もあります。そのため、動物性プランクトンが発育不足になったり

性が高い、電気を通しにくい、透明性があり着色が自由などの特徴があります。一方短所は、熱 死んでしまったりして、生態系のバランスが崩れるかもしれません。また、マイクロプラスチッ

に弱いこと。うっかりコンロの近くにプラスチック製品を置きっぱなしにして、変形させてし クを食べてしまったプランクトンを魚が食べ、それを人間が食べるという食物連鎖に入り込ん

まった人もいるのでは。金属や陶磁器と比べると表面が軟らかいので、傷が付きやすいのも特 でしまう可能性があるということにもなります。しかも厄介なのは、プラスチック自体は有害

徴です。そして、不意打ちでパチッと走るあの痛みの原因、静電気が起きやすいこと。更に、金属 物質ではないのですが、プラスチックの表面に有害物質が付着する可能性があるということ。

や木製品と比べて、使い方や環境によって寿命が短くなることがあります。                                             プラスチックは炭素でできた有機物なので、他の有機物がくっつきやすいのです。実は、自然界

                                                                               には人工物よりも多くの毒性の高い有機物が存在しているんですって。プラスチックを誤飲し

 ところで、具体的にどんな物がプラスチック化されているのでしょうか。身近な物で見てみ た生物の体内に付着していた有害物質が溶け出せば、食物連鎖の頂点にいる私達にも当然影響

ると、買い物袋は、昔はかごや布袋や紙袋でしたが、軽くてかさばらず、水に強く破れにくいポ があるわけで、「うぅ、シーフードよ、お前も安心して食べられないのかい…」という状態に。マ

リエチレンでできた袋に。食品トレイは、木や竹皮から、水に強く衛生的なポリスチレン製に。 イクロプラスチックに関しては、国連や各先進国がどのように海の生態系や人体に影響がある

ボトルは、ガラスから、軽くて割れにくく、再キャップができるペットボトルに。バケツは、トタ のか専門家による調査を開始したばかりで、実際にどのような影響があるのか、まだまだ不明

ンから、軽くてサビないポリプロピレン製に。水道管は、鉄や鉛から、軽くて耐久性があり、サビ な点ばかり。今後の調査報告が気になるところです。

ずに施工しやすいポリ塩化ビニル製になっています。

                                                                                それに、ゴミ問題だけではありますん。プラスチックは有限資源である石油を原料としてい

 こうして見ると、プラスチックがいかに便利な素材か分かりますよね。しかし、どうしてプラ ます。現在の石油の埋蔵量の推定値から、50年ぐらいは大丈夫と言われていますが、残りが少な

スチックが世界規模の問題になっているのか。それはプラスチックの性能ゆえ、利便性と廃棄 くなれば値段も上がり、プラスチックが高級品になる日がやってくるかもしれません。

問題が表裏一体だから。例えば容器包装で使用されるプラスチックは、軽いのに商品をしっか

り守るメリットがあるのに、消費者の手に届いた途端に要らない物=ゴミになってしまいます。 私達にできること

ゴミになれば、腐食しないという長所は自然にかえらないという短所になり、軽いけどかさば

るといったデメリットも強調されます。また、上の図にもあるように、プラスチックにはたくさ  ちょっぴり凹む話になってしまいましたが、では、現状を改善するために私達にできること

んの種類があり、それぞれの特徴を生かした製品が作られていることからゴミの種類も多種多 はあるのでしょうか。「プラスチック製品を一切使わない!」と言う声が聞こえてきそうですね。

様になり、処理やリサイクルも複雑化しています。                                                        でも、私達の周りには気が付かないだけでたくさんのプラスチック製のものがあり、一切使わ
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