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一杯のコーヒー
ひと粒の豆
第6回 焼ける匂いを嗅ぎ、はぜる音を聞く
石渡 俊行〈いしわた・としゆき〉
聞き手・構成:田部井紀子
イベント「Melbourne x スペシャルティ・コーヒー」開催します! 写真:Kazuki Inamine
9月4日(金)午後6時~
Krimper Restaurant, 20-24 Guildford Lane Melbourne
Hawthornにある「Liar Liar」のヘッドバリスタ・平山みね君と、僕、石
渡俊行で、スペシャルティ・コーヒーについてのトークをします。
コーヒーとスイーツ、ビール付きで20ドル。コーヒーを勉強中の方、
ぜひお越し下さい! 予約はtoshi@marketlane.com.auまで。
豆の焙煎を手掛けるようになってから、もうすぐ10年にな ら、フラットな味の豆になってしまいます。これはドラムの中 ています。
ります。最初に焙煎を任せてもらったのはSouth Melbourne の 空 気 が 焙 煎 の 質 に か か わ っ て く る か ら で す 。「 キ ャ パ シ そして、ロースターにとって何よりも大事なのは、味覚です。
のカフェ「St Ali」。その頃はスペシャルティ・コーヒーも豆を ティー」と言って焙煎の際に重要なポイントのひとつです。 自分の焙煎した豆をカッピングをし、味を見る。そしてそれに
自分達で焙煎するマイクロ・ロースタリーも殆どなくて、すべ そして焙煎機に入れた後は、そのまま放っておいていいのか よってまた焙煎を調整していく。一度焼いたら終わりではなく、
てが新しい時代。だから焙煎も「こうじゃなきゃダメ」という決 と言うと、そうではありません。焙煎機はコンピューターに繋 カッピングと焙煎の間を行ったり来たりするんです。当たり前
まりごとがありませんでした。オーナーのマークと2人で、こ がれ、中の3つの温度、まず「環境温度」と呼ばれる焙煎機の中 のことですが、コーヒーは飲んで味わうもの。おいしいか、おし
んなやり方がいいんじゃない、あれもいいかもと、自分達の方 の温度、豆の温度、そしてバーナーの温度が、それぞれグラフと いくないか分からなければ、何を目指して焙煎しているのか分
法を自由に探していました。 して表示されるようになっています。それをモニターしつつ温 かりません。それではおいしいコーヒーはできないんです。
コーヒー豆の焙煎機は、ドラム型で筒状のものがぐるぐる回 度調節をします。特に最後の数分は集中します。どのくらいの もちろん味というのは、人それぞれ大きく違います。だから
り、その下にバーナーがあるという構造です。今マーケット・ 温度で何分焼くのか、短すぎてもいけないし、長すぎてもいけ 「これが絶対に正しい」というものはないけれど、僕らマーケッ
レーンで使っているのはドイツのプロバット社のもの。1950 ない。豆は生物です。その産地、その年によって出来が違う、大 ト・レーンが目指している味があります。それは豆の個性を引き
年製の年代物をオーバーホールして使えるようにしました。昔 きさも水分量も違う。その時のその豆にとってのベストの温度 出すこと。そして甘み、クリーンな味わい、そしてバランスです。
ながらの素材、分厚い鋳鉄でできていて、熱伝導が良いのです。 と時間を探します。 「どんな人が焙煎に向いているか」とよく聞かれます。やは
味も安定しています。 焙煎後、コンピューター上に残された温度x時間のデータは り、味が分かる人だと思います。そのためにはたくさんカッピ
この機械に、前回お話しした方法で精製され、数週間掛けて 「プロファイル」と言って、次に同じ豆、似たような豆を焙煎す ングして味覚を鍛えること。もうひとつは、柔軟性を持ち続け
船で海を渡ってきた豆を入れ、焙煎します。エスプレッソ用な る時の参考にします。でもそれは飽くまで目安。最終的に頼る ること。人の意見を聞いて、それを取り入れていく。「こうじゃ
ら大体210度で12分、フィルターなら200度で9分程焼きま のは、経験と自分の感覚です。焼ける臭いを嗅ぎ、爆ぜる音を耳 なきゃダメ」と自分のセオリーに固まってしまうのではなく、
す。この焙煎機には一度に最大15キロまで入れられますが、実 で聞き、豆の煎りの深さを目で確かめます。テクノロジーに頼 新しいこともトライしてみる。僕自身、いつも自分に言い聞か
際に入れるのは大体10から12キロ。15キロいっぱいに入れた りすぎてはいけないのです。その面でこの焙煎機はすごく向い せていることです。
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一杯のコーヒー
ひと粒の豆
第6回 焼ける匂いを嗅ぎ、はぜる音を聞く
石渡 俊行〈いしわた・としゆき〉
聞き手・構成:田部井紀子
イベント「Melbourne x スペシャルティ・コーヒー」開催します! 写真:Kazuki Inamine
9月4日(金)午後6時~
Krimper Restaurant, 20-24 Guildford Lane Melbourne
Hawthornにある「Liar Liar」のヘッドバリスタ・平山みね君と、僕、石
渡俊行で、スペシャルティ・コーヒーについてのトークをします。
コーヒーとスイーツ、ビール付きで20ドル。コーヒーを勉強中の方、
ぜひお越し下さい! 予約はtoshi@marketlane.com.auまで。
豆の焙煎を手掛けるようになってから、もうすぐ10年にな ら、フラットな味の豆になってしまいます。これはドラムの中 ています。
ります。最初に焙煎を任せてもらったのはSouth Melbourne の 空 気 が 焙 煎 の 質 に か か わ っ て く る か ら で す 。「 キ ャ パ シ そして、ロースターにとって何よりも大事なのは、味覚です。
のカフェ「St Ali」。その頃はスペシャルティ・コーヒーも豆を ティー」と言って焙煎の際に重要なポイントのひとつです。 自分の焙煎した豆をカッピングをし、味を見る。そしてそれに
自分達で焙煎するマイクロ・ロースタリーも殆どなくて、すべ そして焙煎機に入れた後は、そのまま放っておいていいのか よってまた焙煎を調整していく。一度焼いたら終わりではなく、
てが新しい時代。だから焙煎も「こうじゃなきゃダメ」という決 と言うと、そうではありません。焙煎機はコンピューターに繋 カッピングと焙煎の間を行ったり来たりするんです。当たり前
まりごとがありませんでした。オーナーのマークと2人で、こ がれ、中の3つの温度、まず「環境温度」と呼ばれる焙煎機の中 のことですが、コーヒーは飲んで味わうもの。おいしいか、おし
んなやり方がいいんじゃない、あれもいいかもと、自分達の方 の温度、豆の温度、そしてバーナーの温度が、それぞれグラフと いくないか分からなければ、何を目指して焙煎しているのか分
法を自由に探していました。 して表示されるようになっています。それをモニターしつつ温 かりません。それではおいしいコーヒーはできないんです。
コーヒー豆の焙煎機は、ドラム型で筒状のものがぐるぐる回 度調節をします。特に最後の数分は集中します。どのくらいの もちろん味というのは、人それぞれ大きく違います。だから
り、その下にバーナーがあるという構造です。今マーケット・ 温度で何分焼くのか、短すぎてもいけないし、長すぎてもいけ 「これが絶対に正しい」というものはないけれど、僕らマーケッ
レーンで使っているのはドイツのプロバット社のもの。1950 ない。豆は生物です。その産地、その年によって出来が違う、大 ト・レーンが目指している味があります。それは豆の個性を引き
年製の年代物をオーバーホールして使えるようにしました。昔 きさも水分量も違う。その時のその豆にとってのベストの温度 出すこと。そして甘み、クリーンな味わい、そしてバランスです。
ながらの素材、分厚い鋳鉄でできていて、熱伝導が良いのです。 と時間を探します。 「どんな人が焙煎に向いているか」とよく聞かれます。やは
味も安定しています。 焙煎後、コンピューター上に残された温度x時間のデータは り、味が分かる人だと思います。そのためにはたくさんカッピ
この機械に、前回お話しした方法で精製され、数週間掛けて 「プロファイル」と言って、次に同じ豆、似たような豆を焙煎す ングして味覚を鍛えること。もうひとつは、柔軟性を持ち続け
船で海を渡ってきた豆を入れ、焙煎します。エスプレッソ用な る時の参考にします。でもそれは飽くまで目安。最終的に頼る ること。人の意見を聞いて、それを取り入れていく。「こうじゃ
ら大体210度で12分、フィルターなら200度で9分程焼きま のは、経験と自分の感覚です。焼ける臭いを嗅ぎ、爆ぜる音を耳 なきゃダメ」と自分のセオリーに固まってしまうのではなく、
す。この焙煎機には一度に最大15キロまで入れられますが、実 で聞き、豆の煎りの深さを目で確かめます。テクノロジーに頼 新しいこともトライしてみる。僕自身、いつも自分に言い聞か
際に入れるのは大体10から12キロ。15キロいっぱいに入れた りすぎてはいけないのです。その面でこの焙煎機はすごく向い せていることです。
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