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一杯のコーヒー
ひと粒の豆

第8回 11グラムの豆、190ccのお湯

石渡 俊行〈いしわた・としゆき〉
聞き手・構成:田部井紀子

<石渡俊行プロフィール> 写真: Kazuki Inamine
1977年神奈川県生まれ。05年ワーキングホリデー・ビザで来豪、
地元レストランなどを経てサウス・メルボルンのカフェ『St. Ali』
でバリスタを、また09年より『Market Lane Coffee』でヘッド・
ロースター兼クオリティー・コントロールを勤める。国内の各大会
で数々の受賞歴を持つ。カッピングとロースティングのクラスを
開いています。お問合せはhello@marketlane.com.auまで。

 カッピング。コーヒーの品質を味覚と嗅覚を使って確かめる (アロマ)と味(テイスト)についてメモを取っていきます。コー ですが、液体をスプレー状態にすることで、舌の味蕾に味が行

「テイスティング」のことです。僕の仕事はコーヒー豆の焙煎と ヒーのアロマとテイストには、カラフルな円グラフのような きわたるんです。テイスティングの方法は個人差があって、エ

品質管理ですが、品質管理の仕事ではこのカッピングがすべ 「チャート」があって、ナッティ、フルーティー、スウィート、サ アレットをしない人もいます。僕自身は、特に酸味の部分がう

て、といっても過言ではありません。 ワー、ビターなどの言葉で表現されます。以上は「ポジティブ」 まくとらえられるなと感じて以来、エアレットをしています。

 カッピングに使う豆の量やお湯の量は、常に決まっていま のチャートで、逆にカーボンとかビーフといった「ダメ」な表現 液体は飲み込まず、スピット用のカップに吐き出します。

す。豆は11グラム、お湯は190から200cc。温度は90度以上。 が記述された「ネガティブ」のチャートもあります。  前にもお話しましたが、ある味をどうとらえ、どう評価する

カッピングの大会やCOEも、これとは微妙な違いはあります  カッピングの手順はまず初めに、お湯を注いでいない「ドラ かは人それぞれ。でも僕らマーケット・レーンとしての「良い」

が、大体同じです。 イ」状態でのアロマを嗅ぎます。それからお湯を注ぎ4分置い 「悪い」は明確にあります。例えばこれは焙煎しきっていない、

 カッピングの準備をする際に僕が最も気を付けるのは、これ てから、再度アロマを確かめます。この時お湯にグラインドし しすぎちゃっているなど、ダメなものは絶対ダメなんです。

らの条件を常に一定にすること。豆やお湯の量が変わるとコー た豆が浮いている状態なのですが、これをスプーンですーっと マーケット・レーンでは同じ豆を10回ほど焙煎して、それぞれ

ヒーの濃度が変わるし、温度が変わると味が変わってしまう。 押し分けながら、カップに鼻を近付けます。 をテイスティングします。その中で、例えば1番と2番が良い

安定した環境でカッピングすることで初めて、それぞれの豆の  これを「ブレーク」というのですが、ブレークした後、テイス ね、3番はダメだね、という部分は、マーケット・レーンのス

評価ができるというわけです。 ティングを始めるまで更に時間を置きます。熱いのに慣れてい タッフは、みんな統一しています。

 今はコーヒーの濃度を測る機械もあって、経験の浅いスタッ る方は8分で始めたりもしますが、僕は15分くらいからスター  味をとらえるのは、生まれつきできる人もいますが、日々の

フがカッピングをする時には便利です。但し機械だけに頼るこ ト。1番から順にぱっぱっぱっと口に含んでは吐き出し、舌を 生活習慣やその時の体調が大きく影響します。普段すごくスパ

とはできません。飲んでこの濃さは大丈夫だと分かる、経験に 慣らしていきます。そのあと17、8分くらいから、それぞれの味 イシーなものを食べている人や、煙草を吸っている人、また風

基づいた自分の感覚が頼りにすべき一番の基準です。 について事細かに書き出し始めます。 邪を引いていたり、二日酔いだと味はとらえらえることが難し

 カッピングはだいたい5、6種類の豆を同時に行います。それ  テイスティングは、スプーンで液体を掬ってすすります。す い。だから健康管理もすごく大事な、僕の仕事の一部です。ただ

ぞれの豆をトレイに入れて番号札を置き、ひとつひとつ、香り する時、僕は「スッ」という音を立てます。エアレットというん 花粉症の時期は、僕も苦労します。

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