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一杯のコーヒー
ひと粒の豆

第5回 赤いチェリー、グリーンの生豆

石渡 俊行〈いしわた・としゆき〉
聞き手・構成:田部井紀子

<石渡俊行プロフィール> 上:ブラジル産Pulped Naturalのグリーン(生豆) 右上:「チェリー」と呼ばれるコーヒーの実(写真提供:MLC) 右下:「チェリー」の中の構造(イラスト:石渡俊行)
1977年神奈川県生まれ。05年ワーキングホリデー・ビザで来豪、
地元レストランなどを経てサウス・メルボルンのカフェ『St. Ali』
でバリスタを、また09年より『Market Lane Coffee』でヘッド・
ロースター兼クオリティー・コントロールを勤める。国内の各大会
で数々の受賞歴を持つ。カッピングとロースティングのクラスを
開いています。お問合せはhello@marketlane.com.auまで。

 コーヒー豆、といわれてすぐに思い浮かぶのは、茶色くて楕 が、匂いが凄いです。醗酵したりんごのような匂いが、工場の中 セス」と呼ばれている精製方法です。

円形で、縦に線が入ったあの形だと思います。実はあれ、コー いっぱいに広がっています。  これら精製方法の違いは、以前は産地の環境によるものだっ

ヒーの実の「種」なんです。業界では、コーヒーの赤い実のこと  こうして種だけになった豆は周りがまだぬめぬめとしてい たようです。例えば水の少ないアフリカの国ではNaturalを、

を「チェリー」と呼んでいるのですが、果物の「チェリー」同様、 ます。「ミュシレージ」と呼ばれるこの粘液質を、再度水に漬け とか、水の豊富なところはWashedで、といったように。ただ今

果皮があって、果肉があって、その中に種、つまりコーヒー豆が ることによって取っていきます。漬ける時間は12~17時間程。 はどの産地でもいろんな方法を導入しています。ブラジルは今

入っているんです。あの楕円形が2つ、お互いに向き合った形 この間、豆は醗酵もします。その後豆を洗い流して乾燥させ、今 までWashedとPulpedが多かったのですが、最近はNaturalが

でくっついて1つの種になっています。だからひとつのチェ 度はパーチメントという薄皮を機械で削り取り、ついに生豆に かなり増えました。知識と設備がしっかりしていればどの方法

リーから、豆が2つ取れるという訳です。 なる、という訳です。一粒のコーヒー豆が生まれるのに、こんな でも素晴らしい豆ができる、品種やテロワールで足りないもの

 今日は、赤いチェリーから、「グリーン」と呼ばれる生豆を取 にたくさんの手間と、設備が必要なんです。 を精製で補うこともできるんです。逆に精製がうまく行かない

り出すまでの過程「、精製」についてお話したいと思います。  Natural精製は、これよりも原始的と言って良いかもしれま と欠点豆の原因になってしまいます。豆のクオリティーを考え

 精製には、大きく分けて「Washed(ウォッシュト)」「Natural せん。果肉をつけたまま日当たりの良いところで2週間ほど乾 た時、豆そのものの質や保存方法も大事なのですが、精製は中

(ナチュラル)」そして「Pulped natura(l パルプド・ナチュラ 燥させ、真っ黒になった果皮と果肉を削り取ります。Natural でも特に大きな要素なんです。

ル)」と、3つの方法があります。  の生豆は、アップルサイダーのような甘酸っぱい匂いと、熟し  これから入ってくる豆で、マーケット・レーンのみんなが楽

 今スペシャルティ・コーヒーの世界では、クリーンで酸の て醗酵したフルーツ感の強い味が特徴です。 しみにしているのは、ケニアのWashed。水に漬け込む醗酵を2

はっきりとした味に仕上がるWashedが主流と言っていいと  Pulped Naturalは、途中まではWashedと同じ手順。違うの 回、長いところでは24時間も行う、少し変わった方法です。ラ

思います。その名の通り、水を使って行う方法です。収穫後まず は、ミュシレージが付いたまま乾燥させる点です。フルーティ ズベリーやカシスなどのジュースのようなフルーツ感があっ

水に漬け、悪い実を選別します。それからぐるぐる回る大きな 感 も あ り つ つ ク リ ー ン 感 も あ っ て 、ち ょ う ど Wa s h e d と て、酸もきれいです。最近はこういった味を好む方も多く、他国

機械「パルパー」の中に水を流しながら入れて、果皮と果肉を除 Naturalの中間と言った味です。エスプレッソでもフィルター の農園でこの「ケニアン・プロセス」を試みるところも。ケニア

去します。僕も実際の作業を見せてもらったことがあります でも、どちらでも楽しめると思います。中南米で「ハニー・プロ の豆は、丁度この号が発行される頃、届く予定です。

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