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一杯のコーヒー
ひと粒の豆

第3回 バリスタの世界大会と井崎君

石渡 俊行〈いしわた・としゆき〉
聞き手・構成:田部井紀子

<石渡俊行プロフィール> 上:WBC2015優勝のサシャ 写真提供: World Coffee Events 右上:WBC2014の井崎君 右下:サシャと井崎君 写真提供:井崎英典
1977年神奈川県生まれ。05年ワーキングホリデー・ビザで来豪、
地元レストランなどを経てサウス・メルボルンのカフェ『St. Ali』
でバリスタを、また09年より『Market Lane Coffee』でヘッド・
ロースター兼クオリティー・コントロールを勤める。国内の各大会
で数々の受賞歴を持つ。メルボルンのコーヒー業界で活躍する日
本人としては、パイオニア的存在。

 4月、アメリカのシアトルで、バリスタの世界大会「ワール ます、理由は、精製方法は、抽出の仕方は…」などをジャッジに 中を飛び回り、帰国の際には長野と東京を行ったり来たりと多
ド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)」が行われました。今
回の優勝者は、オーストラリアのバリスタ、サシャ・セスティッ アピールします。そして「だから僕のエスプレッソはこういう 忙を極めているようです。今回、サシャのトレーニングのため
ク 。キャンベラのOna Coffeeという、ホールセールもやって
いる大きなカフェのバリスタです。彼が優勝したことでオース 味がします」と言って実際その味がすると、点数も上がります。 にオーストラリアに来た時には、Market Lane Coffeeに立ち
トラリアのコーヒー業界が更に盛り上がるな、と僕もうれしく
なりました。 最近のバリスタは直接農園に行って豆や精製方法を選んだり 寄ってくれました。
 WBCは世界各国のバリスタ達が腕を競う大会で、2000年
から毎年行われています。競技の内容は15分間でカプチー もするので、農園の人の話や彼らとのかかわりを話す人もいま  井崎君がチャンピオンになる前の年、メルボルンで行われた
ノ、エスプレッソ、それから「シグネチャー・ドリンク」の3種
類を4杯ずつ提供するというもの。シグネチャー・ドリンクは す。ちなみに今回優勝したサシャは、コロンビアの豆をワイン 世界大会での彼のパフォーマンスをよく覚えています。彼は、
抽出方法がエスプレッソであればどんな豆、どんな食材でも
使うことができます。この3つのベバレッジを数人のジャッ と同じ方法で精製したものを使ったそうです。 日本の緑茶のお茶屋さんで加工してもらった生豆を使ったの
ジで審査します。
 審査するのは味はもちろんのこと、クレマやフォームのきめ  大会に出るバリスタは、良いパフォーマンスのためにたくさ です。
の細かさ、見た目の安定性、それからタンピングの仕方が曲
がっていないか、マシンは清潔に保たれているかといった技術 ん練習します。時にはコーチを付けることも。そしてサシャが  コーヒー豆と違い、緑茶の加工はごく低温で行われます。だか
的な点などで、スコアシートは数ページにもわたります。
 それから大事なのがプレゼンです。「僕はこういう豆を使い 今大会の出場にあたってコーチを依頼したのが、去年の世界大 らお茶っ葉は緑色をしているのですが、井崎君が使った豆も生

会の優勝者、日本人の井崎英典(いさき・ひでのり)君。僕の友人 に近く、まだ緑がかっていました。それを削ってエスプレッソに

でもあります。 混ぜ、マシンで抽出したのです。彼がそうした理由は、あの日本

 井崎君は、丸山珈琲という会社のバリスタで、同社は長野に 的な味覚「うまみ」。その方法だとコーヒーの中に「うまみ」を出

5店、山梨に1店、東京に2店とセミナールームを持つ、日本の業 すことができるのです。僕も飲ませてもらって、「だし」のような

界ではよく知られている会社です。それ以前はお父さんが経営 はっきりとした「うまみ」を感じることができました。この年彼

する福岡のスペシャルティ・コーヒー専門店「ハニー珈琲」で働 は惜しくも勝利は逃しましたが、翌年、見事優勝しました。

いていました。17歳で国内大会に初出場。18歳でファイナルに  コーヒー関連の大会は今、他にもたくさんあります。焙煎の

残り、去年アジア人としては初めて世界チャンピオンに輝くと 世界大会も2013年からスタート、オーストラリアでも近々始

いう快挙を収めました。それ以来タイトルホルダーとして世界 まるとのこと。僕も出場しようと思っています。

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