愛子先生の診察室便り

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発達障害シリーズ 第3回 注意欠如多動症(2023年9月)- 愛子先生の診療室便り

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発達障害シリーズ 第3回 注意欠如多動症
 

私の診療経験から2015年以降、“発達障害”の診断自体に流行が生じ始めたと感じています。患者さんにとって悩んでいた心理パターンや行動に理由づけができることで、一種の安心を感じることにメリットがないわけではありませんが、安易に診断して “レッテル”を貼ってしまうようなことは、必ずしも良いとは言えません。
そのため、発達障害の診断は慎重になる必要があります。

今回は注意欠如多動症(ADHD)について考えましょう。

ADHDの特徴は?
顕著なのは、気が散りやすいことです。そのため、以下のようなことが現れます。

・注意欠如: 年齢に見合わない不注意さ。
・多動性: ソワソワ、モジモジする。好きなこと以外に対する集中力がなく、殆ど関心や興味を示さない。
・大人の場合は、注意集中の障害: けが、事故、ケアレスミス、物の紛失、びっくりするような忘れ物、靴の左右が違うといった通常では考えられないミス。
・TPOに合わせられない: ほかの人と比べて目立ちやすくなり、学校や職場、家庭などで日常生活に支障が出る。

ADHDは過去この5~10年で診断がつくようになってきましたが、それまでは、幼少期から上記のような症状が出ていても、“変わった子供”と分類されがちでした。大人になるまでに多くの苦悩を重ね、成長に応じて自分なりに苦労し対処してきた人、また対処をしてもなかなかうまくいかない人などいろいろです。いくら自分でコントロールしようとしても、適切な治療を受けていない状態では、不注意や衝動・対人関係でトラブルになる傾向が多いです。
そのため、ADHDのほかに、うつ病や、不安症、不眠症などの合併症を併発することがあります。

ADHDの原因は?
詳しい原因はわかっていませんが、以下のような生まれ持った脳の特性のためと言われています。
・大脳(前頭前野)の機能調整に偏りがある。
・脳内のドーパミン、ノルアドレナリンなど神経伝達物質が不足している。

ADHDの診断ができるのは誰?
ご自身・ご家族の方がADHDかもと思ったら、まずは、掛かり付け医(GP)、臨床心理士(サイコロジスト)にご相談ください。学校に通われている場合は、学校が適切なカウンセラーを紹介してくれることもあります。

ADHDの診断は、基準となる血液検査や画像検査がないため、個人との問診、家族、学校や職場、友人の意見などが重要となります。学生の場合は、学校からのレポートを提出するよう求められることもあります。
但し、ADHD以外の病気から同様の症状が現れることがあるため、血液検査や画像検査などを受けるよう勧められることもあるかもしれません。

どんな治療法があるのか
「ADHDの傾向がある」「ADHD」と診断をされたら、主に二つの方法で治療にあたります。

  1. 心理療法(カウンセリング) 今までの苦悩や葛藤のディブリーフィング、そして、苦手なこと、ミスや衝動の起きやすい状況をカウンセラーと共に確認しながら、タスク(仕事)をリスト化する方法など、日常生活で取り組める行動を中心に、カウンセラーと取り組みます(コーチング)。家族もカウンセリングやペアレントトレーニングなどを受けることを勧められます。
  2. 薬物療法 オーストラリアでは第一選択として精神刺激薬(メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン)などを使います。これらは不足している脳内の神経伝達物質ノルアドレナリンやドーパミンといった脳内物質の不足を改善する効果があります。 第二選択としてアトモキセチン、グアンファシンなどの薬の服用を勧められることがあります。

ADHDの方への対応法は?
家族、学校や職場など、周囲の人は以下のことに気を付けましょう。

・感情的に叱責しない。
・できたことを評価し、自尊心を高める(子供の頃から怒られ続けている可能性があるから)。
・課題は分割して与える。具体的な指示を出す。
・集中できる時間に応じたスケジュールを組む。
・集中しやすい環境を与える。

これらの対応方法は、ADHDの傾向がある、ADHDの診断を受けた方やその周りの方に不可欠です。ご本人にとっても、スムーズな人間関係を築き、生活の質をより良いものにしていくことができればと思います。

Dr. Aiko Tomita Dr. Aiko Tomita Logo 一人ひとりに向き合った医療を提供
富田愛子 Dr. Aiko(Tiarni)Tomita
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