クリスのオージースラング教室

英語の歴史や文化をふまえ、オーストラリアのスラングをご紹介。

クリスの使えるオージースラング教室 VOL.10

 皆さん、明けましておめでとうございます!年末年始はどう過ごしましたか?さすがにちょっと食べ過ぎちゃったって感じはありませんか?クリスマスだけでなく、日本には年明けの祝い食がたくさんあり、ついつい食べ過ぎてしまいますね。その為、もしかしたら食べ物に関する俗語を勉強したくないかもしれませんが、今回の言葉や表現は一年中役に立ちますので是非、頑張ってください。

今月は「Tucker」

 "Tucker" は、多くのオーストラリアの俗語と同じく、元イギリスの俗語です。ところが、単なる「食べ物」という意味の俗語が長い年月を経て、イギリスよりもオーストラリアのスラングとして世界中で知られるようになりました。

 本来 "Tucker" は名字としてしか使われていませんでしたが、いつのまにか「食べ物」という意味になってしまいました。その語源は "Tuck in" という表現から来たようです。“Tuck”はまくり上げるという意味や、狭いところに押し込むという意味もあり、"Tuck in" を直訳すると「好きに口に押し込んで」という意味になってしまいます。ちゃんと訳すと「たらふく食べる」という意味になり、今でも人の家を訪ねたときに食事が出ると、"Please, tuck in !"「どうぞ、召し上がってください」と言われることがあります。そして "Tuck" は名詞の "Tucker" になり、他の言葉とのつながりにより、続々と新しいスラングが生まれて行きました。

 その一つが "Tuckshop" です。来豪したばかりの頃、学校の学期初日に "I’ll show you where the tuckshop is." と言ってくれた人がいて、「Tuckshopってなんだろう」と思いながらついていくと、食堂でした。NSW州以外、全国で使われている言葉で、大人になっても使う言葉です。ちなみに "Tuckshop" はイギリス各地でも使用されていますが、一般的に "Canteen" と呼ばれることが多いです。

 また、オーストラリアの国宝(!?)、あるいは第2の国歌と言えるほど有名な歌 "Waltzing Matilda" にも "Tucker" が登場します。よく聞くと "And he sang as he stowed him away in his tuckerbag, You’ll come a Waltzing Matilda with me" と歌っています。"Tuckerbag" はオーストラリアの奥地居住者(この曲では "Swagman" 呼ばれている)にとって、食事を入れる袋です。

 奥地の食べ物というと、オーストラリアで1987~1990年に渡り、人気のあったテレビ番組 "Bush Tucker Man" が思い浮かびます。1996年にもう一つのシリーズが製作され、この番組内で Major Les Hiddins という元オーストラリア軍人が砂漠に行って様々なネイティブ植物や食べ物(bush tucker、あるいはbush foods)を大博士として説明しました。この番組によって40年代から使われていたこのオーストラリア俗語の使用が爆発的に人気を集めました。

 他にも "tucker" に関する独特な表現があります。"Damper" はこの場合、車のサスペンションの部品ではなく、キャンプファイヤーで焼くパンのことです。そのパンと一緒と飲むブリキ製の湯沸かし機で作るお茶は "billy tea" と言います。もちろん、一番知られているのは "snag" です。ソーセージという意味で、バーべキューに呼ばれると "Hey, don’t forget the snags" と言われるか "Bring some more snags over here, will ya" と言われることがあると思います。

では皆さん、今年も良いお年でありますように!

Chris Nicholls(クリス・ニコルス)

 父はイギリス人、母は日本人。日本で生まれ、幼少期をイギリスで過ごす。その後、家族でオーストラリア移住。英語教師の資格(CELTA)を取得し、日本の英会話学校で英語教師として2年勤務。2007年からはジャーナリストとして活躍。日本語も堪能なので、日本人が間違いやすい英語の指導に自信あり。

(2007年1月号 Dengon Netより更新)