笑顔で迎えてくれた担当のマリア先生はシェフ歴26年、教師歴10年という経験豊富な頼りになる存在です。このクラスは、2年間のディプロマコースの1年目、40週の授業の2週目に入ったところだそうです。最初の半年で料理の基本的な理論や手順を習い、それを実践に向けてトレーニングしている最中で、この3週間でシーフードを学ぶことになっています。
マリア先生自身は見習いとしてレストランで修行をしたので、こんな設備の整ったクラスできちんと教わったことはなく、マネージメントなどの理論も習ったことがないそうで、学生の恵まれた環境がうらやましいと言います。
クラスが始まる時間になると、白衣に身を包んだ学生達が入ってきます。前日に先生がお手本を見せたシーフード料理4品を作るのが、今日の課題です。前日の授業から作ったプランを見ながら2人一組で材料を集め、準備にとりかかります。ヨーロッパ系からアジア系まで国際色豊かな学生達は、みんな仲が良く、楽しそうに相談しながら作業を続けます。先生は、学生達の様子を見ながら声をかけ、アドバイスはしますが手は出しません。
午前中は、カキ料理とシーフードのスープを仕上げて先生のところへ持って来ることになっています。先生の机の上にはコンピューターがあって、学生の作品を試食すると、すぐに評価を打ち込んでいきます。レストランでお客様が納得してお金を出すレベルでなければパスさせない、という基準がはっきりしています。料理の味だけでなく、お皿は暖かいか、盛り付けはきちんと配慮されているかなど、次のタームに彼らがワークエキスペリエンスに行った先で恥をかかないように、そして就職のチャンスがもらえるように気を配ったアドバイスをしています。
隣の部屋からは甘い香りが漂ってきます。こちらではチョコレート作りの実習中。ミッシェル先生はイギリス人、ヨーロッパで修行を積んでスイスのリンツ社でも働いていたプロ中のプロです。朗らかな笑顔で色々な技術を惜し気もなく見せてくれました。自分の技術を次の世代に伝えたいという情熱で教えているんだと語るミッシェル先生も、学生達が売り物になるレベルのチョコレートを自分の力で作り、将来は自営できるようにと、個人の自主性を尊重しながら暖かく見守っています。日本の一斉授業のイメージとは違う、実践的な授業と学生達の真剣ながら楽しそうな様子に感心しました。
マリア先生のクラスはいよいよ佳境に入り、学生達の作品が登場します。先生の評価はとてもオープンで、良くできた料理は周囲の学生達にも食べさせて話し合います。ほめられた学生は本当に嬉しそうです。ちょっと失敗したグループにもユーモアを交え、きっちりとアドバイスします。私も試食に参加させてもらいましたが、同じ材料、同じレシピなのに味がずいぶん違うことに驚きました。先生は学生の個性やレベルの違いを越えて、料理の心を教えようとしているんだと実感し、とても豊かな気分になりました。