勝者、敗者、加害者、被害者は誰だろう
「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった。いまは後悔している」。報道でありがちな犯人の供述だが、今回ばかりは日本人の半数がそう思い始めているのではないか。民主党308議席への投票者である。
「とにかく嫌だった」。これも事件報道でよく耳にする。「嫌」の対象を当時の与党に置き換えると、選挙前後は報道を通さなくても、そこかしこで聞かれた言葉だった。
「痛み」は結局、高齢者や低所得者といった社会的弱者が味わい、見た目ばかりの「美しい国」ができあがった。不満をぶつけても「あなたとは違うんです」とあしらわれ、最後は金融危機で「みぞうゆう」(未曾有)の混乱を引き起こした。自民党は「責任力」をウリに選挙戦に掲げ、有権者は「じゃあ責任を取ってもらおうじゃないの」と素直にカッとなってしまったようだ。
一方、民主党が獲得した議席数は、単独政党として最多記録となる。これを「多過ぎ」と感じている人も少なくないようだ。
自民党が圧勝した前回、普段なら〝泡沫候補〟で終わっていたはずの比例下位候補者が当選した。その後の4年間、彼等は「スキャンダル」「暴走」「パフォーマンス」以外で表舞台に立つことはなかった。今回の民主党は、それをも上回る議席数である。政党名は変われど、同様の人材が当選したとしても不思議ではない。
この選挙結果について、ある人は「勝者はいない」と断じた。信頼を失墜させた旧与党はもちろん、「蟹工船ブーム」で党員を増やしたとされる共産党をはじめ、少数政党も議席数を維持するのがやっとだった。そして大勝した民主党もさっそく、国民から警戒される存在となった。なるほど「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのかもしれない。
ただし、選挙に負けた原因を「むしゃくしゃして」やられたとしても、選挙は事件と異なる。被害者は日々の生活に困窮した投票者であり、加害者である政権政党は、その評価を受けたに過ぎない。それなのに、被害者面した敗者が見せる幹部への悪態は、見ていて更に生理的な嫌悪感が増す。
衆院選 民主党記録的圧勝 社民国民新と連立
政権選択を最大の焦点とした第45回衆議院議員選挙の投開票が8月30日に行われ、民主党が過半数(241議席)を大きく上回る308議席を獲得した。自民党は結党以来初めて第1党の座を奪われ、第2党に転落する歴史的惨敗を喫した。
党派別当選者数は、民主党308、自民党119、公明党21、共産党9、社民党7、みんなの党5、国民新党3、新党日本1、改革クラブ0、新党大地1、無所属6。
民主党候補の小選挙区得票数の合計は3348万票で、現憲法下で行われた衆院選の一政党の得票数としては過去最多。比例代表でも合計で2984万票を集め、過去最多を更新した。小選挙区(議席数300)では、民主党が221議席に対し、自民党は過去最少の64議席、同じく政権与党だった公明党は0だった。
選挙後、民主党は鳩山由紀夫代表を首相とした政権作りに着手。社民、国民新両党との連立政権とし、消費税率の据え置きや子育て支援、年金といった社会保障制度の充実などについて合意した。
自公両党幹部クラスの落選相次ぐ
自公両党では首相経験者、党幹部、派閥領袖等「大物候補」が相次いで落選した。愛知9区では海部俊樹元首相が敗北。首相経験者の落選は、片山哲、石橋湛山の両元首相が落選した1963年の衆院選以来46年ぶりとなる。公明党は太田昭宏代表、北側一雄幹事長らが落選した。
自民党は、現職党三役の笹川尭総務会長や山崎派会長の山崎拓自民党前副総裁、閣僚経験者では堀内光雄元通産相や「もうろう会見」で財務・金融担当相を辞任した中川昭一氏らが議席を確保できなかった。町村派会長の町村信孝前官房長官、伊吹派会長の伊吹文明元財務相、中川秀直同党元幹事長、小池百合子元防衛相は小選挙区で落選し、それぞれ比例代表で復活当選した。
麻生内閣の閣僚17人のうち、参院議員を除く14人は全員当選した。小選挙区では、与謝野馨財務・金融担当相、野田聖子消費者行政担当相ら6人が落選したが、全員比例代表で復活当選した。公明党の斉藤鉄夫環境相は、比例代表中国ブロックで当選した。
失業、求人、物価が揃って過去最悪
失業率、求人倍率が過去最悪を更新し、消費者物価は過去最大の下落幅を記録した。雇用環境の悪化が生活を圧迫し、消費が冷え込むことで、更に雇用が悪化するデフレ傾向が顕在化している。
総務省が発表した7月の完全失業率は、前月より0.3ポイント悪化して5.7%だった。厚生労働省が発表した有効求人倍率も0・42倍と3ヶ月連続で低下。いずれも過去最悪を更新した。
政府の9月の月例経済報告では、景気の基調判断について「失業率が過去最高水準にあるなど厳しい状況にあるものの、このところ持ち直しの動きが見られる」と、総括判断としては初めて失業率に言及した。
一方、総務省が発表した7月の全国消費者物価指数(生鮮品を除く)は、前年比2.2%下落し、3ヶ月連続で過去最大の下落率を更新した。
しかし、今後の消費意識を指数化した8月の消費者態度指数は8ヶ月連続で改善しており、内閣府は「持ち直しの動きが続いている」と判断を据え置いている。
経営不振の日航 デルタなどが資本支援か
経営再建中の日本航空は、世界最大のデルタ航空と欧州最大手のエールフランス―KLMの2社から出資を受ける交渉に入った。実現すれば、日本の航空会社に海外大手が出資する初の事例となる。
日航では、デルタと業務面でも提携し、旅客便での共同運航を始めたい考え。成田発着の国際線では、両社合計で36%と圧倒的な占有率を握ることになる。更にエールフランスとの共同運航の拡大と併せ、自社の機材や人材の投入を極力抑えながら、日米欧に渡る海外路線網を一気に広げることができる。
ただ、航空法の規定で、海外資本は日本の航空会社の株式の3分の1未満しか持てない。株主総会で重要議案を単独で否決できず、欧米2社がどこまで経営の主導権を握れるかが焦点となる。
日航の経営再建を巡っては、日本政策投資銀行や3メガバンクなどが、融資に対し抜本的なリストラを要求。国は、銀行団の融資の一部に保証を付けた他、国交省が日航の再建を監視する異例の体制をとっている。