アーティストの集まるビルで
教室を開いているのは日本の布地を扱うKimonoHouse。観光客や若者で賑わうSwanstonStreetに、まるで異次元空間の入り口のように延びるアーチ型のガラス天井が美しいCathedralArcadeを行くと、同店の入るNicholasBuildingがある。
「このビルは1920年代のものなのよ」と、手動開閉のエレベーターを慣れた手つきで操作するオーナーのLeanneさん。着物柄布地の反物、着物や帯からオリジナルレーベルの小物まで揃う店内は、アーティストのスタジオやギャラリーが集まるビル内にあって、まるで違和感がない。
着物姿は誰でもきれい
着付け教室、英語でKimono Dressingは、毎回1時間、道具の紹介、着物の着方、帯の締め方、おたいこの作り方、一人で着用、と進みながら6週間で学ぶ。専任の田中友子先生は、日本の大手着付け教室で学んだ後、写真館で着付けの仕事をしていた。「この世界は、一番難しい“出張着付け”ができて一人前ではあるのですが、学校では資格や免許と限りがないものなので、この先どうしようかと考えていた頃に、ちょうど写真館の仕事に応募して採用されたんです」。写真館での3年間、自分で着付けたものが写真として残ることは、とても良い勉強になったと振り返る。
先生の本業はITのシステムエンジニア。「本業とは別に着付けは続けたくて、メルボルンに来た直後にインターネットのフォーラムで、どれくらいの人が興味を持っているのか反応を試してみたんです」。ちょうどその頃、Leanneさんは仕事の関係で着付けができる人を探しており、彼女の友達がそのフォーラムを見て連絡を取ってきたのが始まりだった。
コースが始まったのは2007年11月。これまでに計3回開講され、生徒のほとんどは日本人だったが、前回、初めてオージーが参加した。「着物をもらったので着てみたいから、ということでした。でも身長が高い上に胸が大きいので、おはしょりはできないし、襟は崩れるし、教えるのも着せるのも苦労しました」。
ところが、その生徒が家で一生懸命練習してきたことがわかった時には、本当に嬉しかったと言う。「生徒は仕事を持っている人がほとんどでしたが、皆、家でしっかり練習しているのは意外でした」。着物を着るのに最低30分、1時間の授業6回では教えきれない不安も、生徒の“自学自習”のおかげで無事に解消することができた。「最後に自分で着物が着られて喜んでいる様子を見るのが楽しいし、着物姿は誰でも本当にきれいだと思います」。
日・豪問わず、着物を着ていると注目を浴び、改まった気持ちになるのが着物の魅力だと話す。「オーストラリアを含めて、海外にはまだまだ“着物”そのものを知らない人がいるんです」。着物を着る人がもっと増え、着物を知らない人がいなくなることが、メルボルンでの目標だそうだ。
品質と柄が評価されている日本の布地
オープン4年目を迎えるKimonoHouse。Leanneさんは年に2回は日本へ買い付けに行く。「1989年に大阪の花博の仕事で日本へ行ってから、日本の織物に魅せられ、それから5年間日本に住んで、簡単な和裁を年配の日本人から習いました」。同店での刺し子や小物作りのワークショップはLeanneさん自身が指導している。客層は圧倒的にオージー女性で、しかもかなりのクラフト愛好者。「日本の布地は品質と柄が良いと評判ですから」と話すLeanneさん自身、60着程の着物を収集しており、着物についてのゲストスピーカーとして学校やクラブへ講演に出掛けることもあるそうだ。“日本の伝統とオーストラリア文化の融合”というその情熱は、着物を通してますます深まっていきそうだ。