NAM
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ライム味の違反切符

親知らずを抜いたとか、抜いてないとかの話の続き…

「左手をこの台に乗せてね」と優しい麻酔医が言い、あたしの手をつかんで、手の甲を優しく叩いた。ああ、血管を探してるのかと思う間もなく、針が刺される(うわー、書いてるだけでかなり怖い話だねえ。ごめんね)。

その後、麻酔医が「今からねむっちゃうからね」とニコニコしながら注射をして、「本当?」なんて無邪気に答えたら、冷たい感触が腕を上がって来て、次に気付いたら、大きなリクライニングのソファーに寝ていた。

回復室担当の看護婦さんがやってきて、「ゼリーとアイスキャンディーのどちらがいい?」と聞く。質問の意図がわからずにいると、ゼリーを持って来てくれた。「これを食べたら帰れるからね」って、食べないと帰してもらえないらしい。多分、ゼリーを食べられるかどうかで、正常かどうかの判断をするんだろう。しかし口がこわばってうまく開かない。そらそーだ、たった今、手術したばっかりだもんね。むちゃくちゃな話だと思いつつ、帰れないと困るので、少しずつ、ゼリーを食べた。ライム味のゼリーは、ひんやりとして、けっこうイケた。

ゼリーを食べ終わると、約束通り、看護婦さんが更衣室に連れて行ってくれる。やはり、フラフラしている。着替えて出てくると、友達が待っていると言われ、待合室に行くとちゃんとお迎えが来ていた。帰りに薬局で例の鎮痛剤を購入し、家に戻り、さっそく最初の鎮痛剤を飲む。指示通り、4時間後にアラームを仕掛けてベッドに入った。そこから3日間は、3時間45分ぐらいで歯がビミョーに疼き始め、4時間で薬を飲むと10分後に眠くなるという周期で過ごした。顔は少し腫れたが、経験者の友人から脅かされた程ではなかった。

それと、えっと…そうそう、車の続き…

2日ぐらいで返事をくれるはずの警察官からは、音沙汰がなかった。もしや文書が届くのではと、ドキドキしながらポストものぞいたが何も来なかった。そうこうするうちに親知らずを4本一気に抜くという事件もあり、時はどんどん流れていったのだった。そのうち、警察官の言葉を信じて待ってるなんて、ナイーブすぎたのかも…とシニカルな気分になり、めんどくさいから払っちゃおうという気にもなり始めていた。そんなある日、全然別件の人間関係のちょっとしたイザコザに巻き込まれた。くだらない事件にエネルギーをとられて怒りたくなかったので、そのパワーを勇気に変えて、もう一度だけ例の警官に電話をしてみることにした。この態度、前向きでかっこええなあという自己満足を持ちつつ、朝一番の気合で警察署に電話をすると、本人は会議中だという。電話に出た警官が用件を聞いてきたので、駐禁切符の件だと答えると、更に内容を聞いてきた。その態度がいかにも、そんなことで電話してくるなよという感じだったが、一応、説明をした。案の定、そんな話なら、切符の裏に書いてある手順を踏んでクレームを付けるしかないんじゃないの? と言われた。本人に話したところで、きっと同じことを言われるだけだって。それはそうかもしれないが、コールバックすると約束してくれたので、少なくとも本人ともう一度話したいと重ねて訴えた。それじゃあと、渋々、連絡先をメモってくれて会話は終わった。後味は悪かった。本当に会議中だったのか、伝言メモは本人に届くのかという疑惑も頭をよぎり、盛り上がっていた気分はすっかり潰され、じぇんじぇんかっこええことないじゃん状態。午後になっても電話は来なくて、ちょっと後悔した。

すっかり忘れて仕事を始めた時、突然ケータイが鳴った。例の警察官だった。さっきの人と違って、信用できそうな声。そうだよ、この声が「自分も変だと思った」と言ってくれたから、待ってたんだよねえ。
 
「いや、返事をすると言ってたのに悪かったよ。違反切符は目の前にあるかい? じゃあ、右上の番号を読んで。日付はいつ? ボスと相談してもう一度電話をするから」。
「ちょっと待ってください。来週から遠出をするので、結果を今週中に知りたいんですけど。払わなきゃならないなら、その前に片付けてしまいたいので」。
「大丈夫、今日中に返事をするよ」。

わーお。良かったじゃない! ここまでがんばったら、結果がダメでも諦めがつくってもんだ。やっぱり警察は捨てたもんじゃない!

更に30分後、返事が来た。

「この切符は無効にすることに決定した」という声がエコーした。安易に諦めないで本当に良かった、めでたし、めでたし。こんなこともあるんですねえ。運も良かったと思う。別の警官が担当だったら、相手にされてないかも。いずれにせよ、自分に非がないのなら、警察がらみだというだけでビビッて諦めてしまわずに、ちゃんと説明してみた方がいいんだなと思えるようになった。