またしてもなんだかわからない
「きみの車がなんだか大変なことになっているから、すぐ外に出て確認した方がいい」という電話で起こされたのは、梅雨のはずなのに猛暑の東京から、真冬のメルボルンに戻った次の朝だった。声の主は5分前に仕事に出掛けた相棒君だった。なんのこっちゃ? と思いつつ、ボケた頭で通りに出て、驚いた。
あたしのかなり古い愛車のチャーリー君が妙なことになっていた。前の晩、寝る前にはちゃんと普通に通りに停まっていたチャーリー君のお尻側半分が、通りの真ん中にはみ出している。どう見ても通行車に迷惑である。しかし、この車、もちろんちゃんとロックしてあるし、あたしの留守中に古いバッテリーが死んで、運転したくてもできない状態。しかも、フロントグラスの前には、警察の駐車違反切符が挟まっていた。時間を見れば、午前2:40。夜中にどっかの馬鹿な奴等がいたずらで動かした後、ご丁寧にパトロールの警官がやって来て、違反切符を書いていったらしい。何であたしが罰金なのさ?
しかし、何よりまず、必要なのはRACVに電話すること。このままじゃ、危ないもんね。約30分後、RACVのおじさんが助けに来てくれて、なんとかエンジンを動かして、車を普通に駐車させた。その時、ふと思い出して、車の様子を写真に撮っておくことにした。そこにまた、偶然、相棒君の妹が車で通りかかった。結構おしゃべりだが、面倒見もいい彼女は、警察に連絡を取って事情を説明するべきだと言う。確かに、だって、罰金は66ドルだから、たいした金額ではないけど、夜中に無断で車を移動させようとした奴等がいたことは、報告するべきだろう。あたしに落ち度があるとすれば、チャーリー君が古くて、アラームが付いていないことぐらいじゃん。サイドブレーキとギアが入っていなければ、どこまで引きずり出されたかわからない。あたしは被害者であって、加害者ではない。だが、多分にお人好しなのか、夜中に危ない駐車を見付けた警察官の気持ちもわからないではないような。酔っ払いがめちゃくちゃに車を停めちゃうなんて、この国ではありそうなことだ。むしろ、夜中に複数の誰かが、こんなワケのわからないいたずらをしたことを証明する方が難儀だよなあ。
という訳で、帰国2日目にして、妙な課題をもらったのだった。まず、切符を書いた警察官の所属する隣町の警察署へ行った。状況を説明すると、受付の警察官は切符の裏に書いてある手続きを踏んで裁判に持っていくようにと言う。「でも、この事件に関するレポートを出さなくていいんでしょうか」と聞くと、必要ないと言う。この切符は確かに、ここの署員の手で書かれたが、もう我々の手を離れているので、所定の手続きを取りなさいと追い返された。
納得がいかないので、今度は事件現場の地元の警察署まで行ってみた。事件について知りたくないのは、ここも同じだった。でも担当の警察官がヒントをくれた。この違反切符をキャンセルできるのは、切符を書いた警察官当人だけだと言うのだ。しかも、その警察署に電話を掛けて、本人に事情を説明する権利はあると言って、電話番号をくれた。家に帰って電話をすると、本人は夜中の11時から勤務が始まるという。ドキドキしながら、その時間に電話をして、「あなたが信じる義務はないが、夜中に車が動かされた」と説明すると、「こちらでも変だと思った」という良心的な答え。この件に関しては、ボスと相談して2日ぐらいで返事をするからと言われて電話を切ったのが、3日前…。警察官は約束を守って電話してくれると信じたいけど、この原稿の締め切り前には答えが出ていない。まあ、なんてスリリングな街、メルボルン!