インスタレーション作家・華道家 川名  哲紀
『命』あるものを使って創り出すエネルギー
インスタレーション作家・華道家 川名 哲紀 (かわな てつのり)
いけばなインターナショナルメルボルン支部創立50周年を記念した花展に併せ、草月流師範の川名氏が来豪し、ビクトリア州立美術館(NGV)で作品を発表。日本人には馴染み深い“竹”が、どんなインスタレーションアートになるのだろうか。

竹はエネルギーの象徴
NGVのホールを抜けると広い庭がある。流れる水の音を聞きながらいくつかのオブジェを通り抜けると、そこに作品と作業中の人達の姿が飛び込んできた。それまで、スタッフに指示を出していた川名氏が、笑顔で近づいてくる。まだ未完成というのに、その存在や竹のうねりのようなものを感じているところで、話は始まったー。

場所や空間全体を作品として体験することをインスタレーションということは、おぼろげにわかるのだが、具体的にはどういうことだろう。
  「これまでニューヨークやモスクワなど他都市でもやってきたように、今回も竹を使っています。皆さんには、竹で表現した“水”、その他の太陽、風、空、地という合わせて5つのエレメントを体感してもらいたい。そして、そんな大気のエネルギーを、作品を通してギャラリーの中に入れ込もうと思います。近くに来た人が、竹の感触、そこを通り抜ける光や風、香りを楽しめるように五感をフルに使って作品とマッチングし、そこから何かを得ることができればと思います」。
確かに、縦に割った竹の曲線はWaveのようで、川の流れや水にも見える。【1本1本の竹に意味があり、竹の持つエネルギーを引き出し、クリエイトする】と言う話にもうなずける。今回、ビクトリア州の真竹を約250本使用。日本で竹は、門松に使われるおめでたい物、また民芸品や工芸品として利用される身近な物。竹は1年で成長し、スパッと伸びるエネルギーを持つもの。ただ、間引きしないと真っ直ぐな竹は育たず、その間引きしたものを捨てず、無駄使いしないで、形を変えてアートとしてリインカネーション、再生させると言う。 

多くの人と場と時間の共有
制作は毎回2週間程度の限られた時間。これだけ大掛かりなものは、もちろん1人ではできない。「ボランティアが30名程来てくれました。中でも草月流の会員は教え子でもあり、オーストラリア全土から集まってくれたので、今回は仕事がしやすいです。人を動かすには政治的なことも必要で、作品作りの中でも重要なポイントになります」と常に気配りも忘れない様子。
「道具の使い方、テクニックを教え、そのうえで『生き物を使う』意味を話します。1日、2日では覚えられません。できるだけ制作期間中は付き合ってもらいます」。
世界各地で毎年制作してきた中には、材料が集まらない、想像していたより乾燥していて竹のしなりが違う、といったハプニングはもちろんもあったと言う。「でも、私の考えをなかなか理解してもらえない、共有してくれない人がいる場合はもっと難しい。『アイデアを変えてほしい』と言われたこともあります。でも最後は『私を見てください』と…」。
100%コントロールできない自然のものと多くの人との共同作業は、どんなに大変なことだろう。「生き物だから2度と同じものは作れません。彫刻や絵のように作り直しができないのです。これで大丈夫、と思っていても1日ごとに変化します。それに対応できるように、懐を広く持つようにしています。そして、一緒に作業する人の集中力やモチベーションをキープし、パワーを引き出していきます。そんなところもインスタレーションの難しいところであり、おもしろいところでもあります」。

アートはうそをつかない
「壊すことや破壊する力が、人に与える影響は大きいものです。でも、『9・11』から世界が変わってきました。生まれ来るものの力、生命体の持つエネルギーは、強さの質が違うのです」。 いけばなに対しても、生命あるものを使っているというこだわりは忘れない。「器の中にきれいにいける、形がおもしろいというだけでは、アートにならないと考えています。自分が教える時は、自然界ですでに完成している花や木を使うことの難しさ、それを自分のクリエーションにすることへの恩恵、畏怖といったものを感じながら制作するように伝えています」。 いけばなをアートとして捉えることは、草月流三代目家元、勅使河原宏氏に20年間師事した影響が大きかったと言う。「日本のフラワーアレンジメント、ウエスタンアレンジメントとも違います。アートは国も人種も政治も全て超え、人に与える大きな力を持っています。また、言葉を持たない分正直なはず。だから説明の必要のある作品は良くないと思っています。見た人が何かを感じること、イマジネーションを持ってもらうことが大事です」。 その場所、その時、そこにある命あるものを預かってクリエイトする。クリエイターの持つ責任感を見せられたインタビューだった。
インスタレーション作家・華道家 川名  哲紀
インスタレーション作家・華道家 川名  哲紀
華道家 川名哲紀氏による
Five Elements – Water展
NGV International Groll-Equiset Gardenにて
7月26日(日)まで 入場無料
180 St. Kilda Road. Melbourne
入場無料

詳細・問い合わせ
Tel: 03-8620-2222
Web: www.ngv.vic.gov.au
Web: www.ikebanamelbourne.com